ようこそ、むし屋へ    ~深山ほたるの初恋物語編~

思春期脱出!

 少しの間の後で、紗良は静かに、でもきっぱり言った。

「私、ももちゃんのこと気持ち悪いなんて思わない。それに、嫌な奴になるくらい好きって気持ち、私もよくわかるよ。ね、ほたるちゃん」
「うん」
 昔、おんなじようなことを紗良と話した。ももちゃんが開けてくれた調理室で。

「この際だし、私もほたるちゃんに謝りたいことがあるの」と、今度は紗良が頭を下げる。なんだか、懺悔大会みたいになってきた。

「実は篤君がスリランカに行く随分前に、私と篤君は別れていたの。私、原因はほたるちゃんだと思って、悔しくて、篤君と別れたこと秘密にしたの」
「そうだったの?」

「本当にごめんなさい」
 でも、美少女紗良が自分に嫉妬していたなんて、逆に嬉しいかもと、今のほたるは思えた。紗良との間にあった、こんがらがった感情が解けていく。

(思春期を抜け出したってことかな)

「あの頃はお互い、それくらい篤が好きだったんだよね。おんなじくらいももちゃんは紗良が好きだったってことだよね」
「ももちゃん、私、ももちゃんが私のこと好きだったなんて嬉しい」

 紗良がにっこり笑って両手を広げ「紗良っちぃ~~~」と、ももちゃんががしっと抱きついた。

「つまり、誰が誰を好きだろうと『チーム田園』のメンバーは、親友に変わりないってことだね」
 さなえちゃんがまとめ、みんなで大きく頷き合う。ほたるが代表して、篤にこの決定を伝えることが決まった。

「でもまさか、ライバルが大地君だったなんてびっくりね、ほたるちゃん」
「……本当だね」
「……なんか、すんません」
 謝る大地君にみんなが爆笑する。

「で? 二人はもう篤君のことは吹っ切れたの?」

 さなえちゃんにそう尋ねられ、ほたるは紗良を見つめた。篤が生きていると聞いて涙した紗良は、まだ篤を引きずっているかもしれない。

「私ね、今付き合っている人がいるの。まだ付き合って一か月だけど今度こそ運命の人だと思うの。三度目の正直って言うし」
「三度目の正直って、篤の他に元カレがいるってこと?」

「うん。その人も運命だと思ったんだけど違ったみたい」
 ぽっと頬を染める紗良。……篤がブルーサファイアを送った気持ちがよくわかる。

 ももちゃんは、元フルーツ部の杏ちゃんとつきあっているらしい。
 大地君が「こほん」と咳払いをした。

「ついでにオレもカミングアウト! オレ、さなえと別れてから何人かの女子と付き合ったんです。こう見えて結構オレ、モテるんす。みんな可愛い子でした。そしていろいろと、まあいろいろと、盛り上がったりもしたわけです。そして、気づいたわけです。キスしてホッとしたのは、さなえだけだと。つまり、さなえはオレにとって特別ってことで、笹塚さなえさん、オレと結婚を前提に付き合ってください!」
 大地君がさなえちゃんに手を差しだす。

「あたしも恋愛相手としての大地はちょっと物足りなかったけど、結婚するなら大地はアリだと思ってる」
「じゃあ……」

「でも、もうちょい遊んでからかな。玉の輿も狙いたいし」
「……そんなぁ」
 さなえちゃんと大地君。アメジストとガーネットは相性がいいらしい。

「寂しいのはあたしだけじゃん! いい恋してやる~」

 そう叫びながら、いつの日か、このメンバーに篤が加わったらいいな、と、ほたるは思っていた。
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