ようこそ、むし屋へ    ~深山ほたるの初恋物語編~

ようこそ、むし屋へ

「蜻蛉さんと同じむし。つまり、招きむしがいるってことは、この子を置いておくだけで、珍しいむしを持ったお客さんがわんさか集まってくるってことじゃないのかな」
「な……」
 向尸井の表情がさっと変わった。

「……する」
「え?」

「だ~か~ら~、仮採用する」
「やったね。ほたるちゃん」
 アキアカネがほたるに向かってウィンクをし、ほたるもぱあっと嬉しくなる。

「はい! アキアカネさんのおかげです」
 向尸井はともかく、アキアカネは優しくていい人だ。カッコイイし。

「柔和な見た目に騙されるなよ。アキアカネはトンボだからな。トンボは日本じゃ縁起虫だが、西洋じゃ不吉な虫だ。ドラゴンフライだ」
 ふんっと向尸井が鼻を鳴らす。

「それから、お前は客じゃないからもう丁寧語は使わない!」
「すでに丁寧語じゃないですけど」

「……そういう切り替えし、蜻蛉にそっくりだな」
「まあまあ。とにもかくにも」とアキアカネがほたるににっこり笑いかけた。

「ようこそ、むし屋へ! これからよろしくね、ほたるちゃん」
「おい、仕切るな。ここはオレの店だぞ」

 やいやい言い合っている向尸井とアキアカネを眺めながら(むし、かぁ)と、ほたるは考える。
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