氷の魔術師は、自分よりも妹を優先する。~だから妹を傷つけるモノは死んでも許さない~
第11話、そして二人は再会を果たす。
――油断していると、命取りになりますよ、アリシア様。
ある魔獣討伐の際に一緒になったレンディスが、無表情でそのように答えていた。しかし、確かに彼の言う通りなのかもしれないと、あの時思い知らされる。
今回、簡単な仕事だと思い参加していたのだが、魔獣討伐なんて簡単な仕事ではなかったと、後先後悔しても既に遅い。連日の仕事と連続徹夜をしていたせいなのか、睡眠をうまく取っていなかった事もあり、気が一瞬だけ抜けてしまっていたらしい。
いつの間にか目の前に魔獣が襲い掛かってきており、一瞬の油断をしてしまったのだ。その時、近くにいたレンディスが彼女の身体を抱きしめると同時に、大剣を握りしめながら魔獣まっ二つにし、その場で立っている姿が。
彼は、無表情でそのように告げたのだ――失態だと理解したアリシアは抱きしめられている事に気づき、急いでその場から離れる。
「す、すみませんレンディス様……」
「お疲れのご様子みたいですね……大丈夫ですかアリシア様?」
「連日の疲れがたたったみたいです……本当に申し訳ありません。まだ討伐対象が複数いるみたいなので奥の方に――」
「アリシア様」
次の瞬間、アリシアはレンディスに腕を引かれ、そのまま彼に抱きしめられるような形で持ち上げられる。
一瞬、自分の身に何が起きたのだろうかと目を見開いていたのだが、レンディスは全くそんな事関係なく、彼女に抱っこと言う体制を取りながら、魔獣が居る場所ではなく、後方の方に居るファルマたちの方に向かって歩き始めている。
「あの、私はまだ――」
「アリシア様、疲れ切った顔をしています」
「そ、それは……」
「先ほども言いました。油断をしていると命取りになると……そもそも前衛にあなたが居る事自体おかしいのです。アリシア様、魔術師でしょう?」
「うっ……」
本来ならば、前で戦う存在ではない王宮魔術師のアリシアなのだが、アリシアはそんな事を無視して前方に向かって魔術の支援、攻撃を行っている。あわよくば、剣まで使って。
いつもだったら推奨できるほどの力の持ち主だからレンディスも肯定していたが、今回ばかりはいけないと、彼自身の判断だ。
元々無表情な顔をしているレンディスだが、今回ばかりはいつもより怖さを感じてしまうのは気のせいだと思いたいアリシアだった。
彼に体を抱きかかえられながらそのまま早足で後方の方に連れていかれているが、普通の令嬢だったらきっと黄色い声を上げているかもしれない。しかし、アリシアは性格は普通ではなかった。
妹大好きで、妹の事を優先している姉であり、同時に既にイケメンと言う顔に離れてしまっている。それは、彼女の幼い頃によるものなのであった。
そして、誰も知らない秘密――アリシアは前世の記憶があるからこそ、昔から覚めた性格の持ち主であったため、この状況でもアリシアはレンディスの事をなんとも思っていなかった。
ただの友人と言う形で、アリシアはレンディスに対し接している。
「……レンディス様」
「なんでしょう、アリシア様」
「――いつも、ありがとうございます。気にかけてくださいまして」
アリシアは自分の事を優先しない――それは、彼女自身理解している。
彼女は昔から妹の事を優先にしながら生きてきた。それは、妹が可愛いからという事もあるが、それ以上に彼女はこの国王妃になる存在でもあったからだ。
王太子と婚約しており、王太子であるあの第二王子を慕っているアリシアの姿を見ると、半分胸が痛く、半分嬉しい気持ちにもなる。
だからこそこれからも、アリシアはこの国の為に、そして妹、家族の為に支えていくつもりでいた。だから、自分自身の事は後回しだ。
そんなアリシアに対して気にかけてくれる人が、このレンディスだったりする。今回も、きっとアリシアの様子がおかしい事に気づいたからこそ気にかけてくれ、助けてくれたのであろう。少し恥ずかしそうな顔をしながら答えるアリシアに対し、レンディスは少しばかり驚いた顔をしながら答えた。
「……アリシア様ってそのような顔もするのですね。いつも鉄仮面の顔をしておりましたから」
「わ、私だって感情と言うモノはありますから!」
「……なら、アリシア様」
ふと、レンディスがジッと自分の方に視線を向けながら、答えた。
「――感情と言うモノがお持ちであるならば、どうか自分の事も大事にしてください」
何処か悲しそうな顔をしながら答えるレンディスの手が微かに震えている――きっと、先ほどの事を言っているのであろうと理解した。
今回は本当に自分自身の落ち度だ。しかし、それでもアリシアは譲れないモノがある。
「ごめんなさい、レンディス様」
「アリシア様?」
「――私は、自分の事を優先にすることは、難しいみたいです」
レンディスに抱きかかえられながら、アリシアは静かに笑ったのだった。
▽▽ ▽
――などと、言う事があったのかもしれない。結局あれからも自分の事を優先できないまま数年の月日が流れてしまった。
アリシアは今、隣に大切な妹が居るはずなのに、何故か今は妹の事が考えられないでいた。
体を硬直させ、その場に立った状態のままでいるアリシアを横目で妹であるカトリーヌが見つめていた。彼女がどうしてそのような姿になってしまったのか、と言う理由は簡単。
告白し、求婚してきた男性、レンディス・フィードが休暇の為に屋敷に訪れるからである。
同時にカトリーヌの友人、エリザベートも来てくれるから彼女にとって嬉しくてたまらないが、アリシアはそうでもない。緊張して体が硬直している。
そんな彼女にカトリーヌは声をかける。
「お姉様、リラックスですよ」
「か、簡単に言いますが……ああ、馬車が近くまで来ているぅ……」
「お姉様……」
いつもの姉ではない姿を見たアリシアは少しばかり驚いてしまったが、同時に新鮮だなと思うのであった。
徐々に馬車が近づいてきて、アリシア、カトリーヌの前に止まる。
そして馬車から出てきた一人の男性――レンディス・フィードが姿を見せると同時に、アリシアの身体が再度硬直してしまっている。
レンディスは馬車から出た後、次に一緒に乗っている妹であるエリザベートに手を伸ばし、エスコートをした後、地面にエリザベートが足を付いたのを確認し、レンディスはアリシアに視線を向ける。
いつもとは違う服装のレンディスに、アリシアは何を言えばいいのかわからなく、口が動かせない。同時に、レンディスも同じような事を考えているのか、言葉がうまく出なかった。
「そ、その……えっと……こんにちは、レンディス様」
「……こ、んにちわ、アリシア様」
お互い、二人の距離はまだ縮まない。昔はこのような会話をする仲ではなかったはずなのだが。
馬車から降りたエリザベートはアリシアに近づき再会を喜んだあと、二人の様子を見ながら静かにため息を吐くのだった。
二人の関係は、まだ始まったばかり。
ある魔獣討伐の際に一緒になったレンディスが、無表情でそのように答えていた。しかし、確かに彼の言う通りなのかもしれないと、あの時思い知らされる。
今回、簡単な仕事だと思い参加していたのだが、魔獣討伐なんて簡単な仕事ではなかったと、後先後悔しても既に遅い。連日の仕事と連続徹夜をしていたせいなのか、睡眠をうまく取っていなかった事もあり、気が一瞬だけ抜けてしまっていたらしい。
いつの間にか目の前に魔獣が襲い掛かってきており、一瞬の油断をしてしまったのだ。その時、近くにいたレンディスが彼女の身体を抱きしめると同時に、大剣を握りしめながら魔獣まっ二つにし、その場で立っている姿が。
彼は、無表情でそのように告げたのだ――失態だと理解したアリシアは抱きしめられている事に気づき、急いでその場から離れる。
「す、すみませんレンディス様……」
「お疲れのご様子みたいですね……大丈夫ですかアリシア様?」
「連日の疲れがたたったみたいです……本当に申し訳ありません。まだ討伐対象が複数いるみたいなので奥の方に――」
「アリシア様」
次の瞬間、アリシアはレンディスに腕を引かれ、そのまま彼に抱きしめられるような形で持ち上げられる。
一瞬、自分の身に何が起きたのだろうかと目を見開いていたのだが、レンディスは全くそんな事関係なく、彼女に抱っこと言う体制を取りながら、魔獣が居る場所ではなく、後方の方に居るファルマたちの方に向かって歩き始めている。
「あの、私はまだ――」
「アリシア様、疲れ切った顔をしています」
「そ、それは……」
「先ほども言いました。油断をしていると命取りになると……そもそも前衛にあなたが居る事自体おかしいのです。アリシア様、魔術師でしょう?」
「うっ……」
本来ならば、前で戦う存在ではない王宮魔術師のアリシアなのだが、アリシアはそんな事を無視して前方に向かって魔術の支援、攻撃を行っている。あわよくば、剣まで使って。
いつもだったら推奨できるほどの力の持ち主だからレンディスも肯定していたが、今回ばかりはいけないと、彼自身の判断だ。
元々無表情な顔をしているレンディスだが、今回ばかりはいつもより怖さを感じてしまうのは気のせいだと思いたいアリシアだった。
彼に体を抱きかかえられながらそのまま早足で後方の方に連れていかれているが、普通の令嬢だったらきっと黄色い声を上げているかもしれない。しかし、アリシアは性格は普通ではなかった。
妹大好きで、妹の事を優先している姉であり、同時に既にイケメンと言う顔に離れてしまっている。それは、彼女の幼い頃によるものなのであった。
そして、誰も知らない秘密――アリシアは前世の記憶があるからこそ、昔から覚めた性格の持ち主であったため、この状況でもアリシアはレンディスの事をなんとも思っていなかった。
ただの友人と言う形で、アリシアはレンディスに対し接している。
「……レンディス様」
「なんでしょう、アリシア様」
「――いつも、ありがとうございます。気にかけてくださいまして」
アリシアは自分の事を優先しない――それは、彼女自身理解している。
彼女は昔から妹の事を優先にしながら生きてきた。それは、妹が可愛いからという事もあるが、それ以上に彼女はこの国王妃になる存在でもあったからだ。
王太子と婚約しており、王太子であるあの第二王子を慕っているアリシアの姿を見ると、半分胸が痛く、半分嬉しい気持ちにもなる。
だからこそこれからも、アリシアはこの国の為に、そして妹、家族の為に支えていくつもりでいた。だから、自分自身の事は後回しだ。
そんなアリシアに対して気にかけてくれる人が、このレンディスだったりする。今回も、きっとアリシアの様子がおかしい事に気づいたからこそ気にかけてくれ、助けてくれたのであろう。少し恥ずかしそうな顔をしながら答えるアリシアに対し、レンディスは少しばかり驚いた顔をしながら答えた。
「……アリシア様ってそのような顔もするのですね。いつも鉄仮面の顔をしておりましたから」
「わ、私だって感情と言うモノはありますから!」
「……なら、アリシア様」
ふと、レンディスがジッと自分の方に視線を向けながら、答えた。
「――感情と言うモノがお持ちであるならば、どうか自分の事も大事にしてください」
何処か悲しそうな顔をしながら答えるレンディスの手が微かに震えている――きっと、先ほどの事を言っているのであろうと理解した。
今回は本当に自分自身の落ち度だ。しかし、それでもアリシアは譲れないモノがある。
「ごめんなさい、レンディス様」
「アリシア様?」
「――私は、自分の事を優先にすることは、難しいみたいです」
レンディスに抱きかかえられながら、アリシアは静かに笑ったのだった。
▽▽ ▽
――などと、言う事があったのかもしれない。結局あれからも自分の事を優先できないまま数年の月日が流れてしまった。
アリシアは今、隣に大切な妹が居るはずなのに、何故か今は妹の事が考えられないでいた。
体を硬直させ、その場に立った状態のままでいるアリシアを横目で妹であるカトリーヌが見つめていた。彼女がどうしてそのような姿になってしまったのか、と言う理由は簡単。
告白し、求婚してきた男性、レンディス・フィードが休暇の為に屋敷に訪れるからである。
同時にカトリーヌの友人、エリザベートも来てくれるから彼女にとって嬉しくてたまらないが、アリシアはそうでもない。緊張して体が硬直している。
そんな彼女にカトリーヌは声をかける。
「お姉様、リラックスですよ」
「か、簡単に言いますが……ああ、馬車が近くまで来ているぅ……」
「お姉様……」
いつもの姉ではない姿を見たアリシアは少しばかり驚いてしまったが、同時に新鮮だなと思うのであった。
徐々に馬車が近づいてきて、アリシア、カトリーヌの前に止まる。
そして馬車から出てきた一人の男性――レンディス・フィードが姿を見せると同時に、アリシアの身体が再度硬直してしまっている。
レンディスは馬車から出た後、次に一緒に乗っている妹であるエリザベートに手を伸ばし、エスコートをした後、地面にエリザベートが足を付いたのを確認し、レンディスはアリシアに視線を向ける。
いつもとは違う服装のレンディスに、アリシアは何を言えばいいのかわからなく、口が動かせない。同時に、レンディスも同じような事を考えているのか、言葉がうまく出なかった。
「そ、その……えっと……こんにちは、レンディス様」
「……こ、んにちわ、アリシア様」
お互い、二人の距離はまだ縮まない。昔はこのような会話をする仲ではなかったはずなのだが。
馬車から降りたエリザベートはアリシアに近づき再会を喜んだあと、二人の様子を見ながら静かにため息を吐くのだった。
二人の関係は、まだ始まったばかり。