我慢ばかりの「お姉様」をやめさせていただきます~追放された出来損ない聖女、実は魔物を従わせて王都を守っていました。追放先で自由気ままに村づくりを謳歌します~
ここまで簡単に聖女の力が発動できたのは久しぶりのことで、驚いて自分の手を凝視する。今のは偶然? それとも……?
【ありがとう。すっかり痛みが引いたよ】
「えっ?」
急に声が聞こえて、私は手から魔物へと視線を向ける。
「あなた、話せる魔物だったの?」
【うん。それにしても驚いた。本当に、魔物の声が聞こえる人間に出会えるなんて】
私は魔物使いの力を持っているためか、昔から魔物と意思疎通ができる。ほかの人にはただの鳴き声にしか聞こえないだろうが、私にはなにを言っているのかわかるのである。
自分が魔物使いだということに気が付いたのも、幼い頃、魔物が棲みつく森にお母様が結界を張りに行くのに同行した際、魔物の声が聞こえたのがきっかけだ。
長年生きている上級の魔物ともなれば、周囲の人間に強制的に言葉を聞かせることも可能というが、ほとんどの魔物はそれができない。
逆に幼すぎる魔物だと、まだ言葉自体をはっきり理解しておらず、ほとんど会話にならなかったりする。人間の赤ちゃんと同じで、魔物も成長と共に言語を理解していくというわけだ。
この子は犬だったらそこそこ大きめサイズだけれど、魔物としてはそこまでじゃあない。だから、まだ話せないのかと思っていた。実際ここまで一言も会話がなかったし……。
【僕、君のこと知ってるよ。王都に世にも珍しい魔物使がいるって。名前はたしか――アナスタシア】
「……正解。すごい。ここまで私の名前が広がってるなんて」
知らないうちに、魔物界で私は有名人になっていたようだ。
【アナスタシア。どうして君がこんなところに? 自分で言うのもなんだけど、ここは魔物にとっては天国だけど、人間にとっては決していい場所じゃないよ】
「知ってる。私、今日からこの村で暮らすことになったの。……婚約破棄された挙句、王都を追放される羽目になっちゃって」
【えぇ!? どうしてそんなことに……。国にとって、聖女は大事な存在なはずだろ?】
苦笑しながら言う私に、魔物は驚いて目を丸くした。
「私、聖女として半人前どころか……ほとんど聖女じゃないに等しい存在だったから」
【なに言ってるんだ。だったら、今僕の傷を治せるわけがない】
「うーん……。それに関しては、私も不思議に思ってるのよねぇ」
なぜ急に光が発動したのかなんて、私が聞きたい。首を捻らせて考えていると、魔物がまた口を開く。隙間から見える小さな牙が可愛らしい。ほかの人が見ると、怖いと思うのかしら……って、今はそんなことどうでもいいか。
【……君、もしかして、黒い石のついたブレスレッドをつけていた?】
「……え?」
それって、私がアンジェリカにプレゼントされた物のことだろうか。
「つけていたけど、ちょうどあなたに会う前に村の入り口付近に捨てちゃったわ。……それがなにか?」
【やっぱり! あれは君がつけていたのか! この男に見つかる前、僕はそのブレスレッドを見つけたんだよ。魔法石特有の匂いを感じてね】
――魔法石?
「あれは天然石じゃあないの? アンジェリカにもらった時、天然石だと聞いていたんだけど」
私が言うと、魔物は首を横に振る。
【あれは呪いの魔力が込められた立派な魔法石だよ。君はたぶん、そのアンジェリカって人に呪いをかけられていたんだろうね】
「……なんですって?」
この世界には聖女という存在もあれば、ほかにもあらゆる特殊な職業がある。魔法使い、騎士、格闘家、薬師――そして裏社会の闇職業、呪術師なんかも存在していると聞いた。
まさかアンジェリカは、わざわざ闇ルートから呪術師と繋がって……もしくは近しい人間に頼んだか、闇市に身分を偽って赴いたか……そうやって、石に呪いをかけていたってこと?
そんなことしない、と言い切れないどころか、寧ろあの子ならやってのけそうだとすら思える。私を蹴落とすためなら、犯罪にすら手を染める。……本当に罰せられるべきは妹だというのに、考えれば考えるほど、私の周りには馬鹿な人たちしかいなかったみたいだ。
【呪いの内容も、この状況を見れば大体見当がつく。大方、聖女としての力を呪いで無理矢理抑えこんでいたんだろう。魔力を封じたり、その人自身が持つ特殊能力を抑え込む呪術でね。身に覚えはない? ブレスレッドをつけてから、急に力が弱くなったとか】
「……覚えがありすぎて眩暈がするくらいよ」
頭を抱えて項垂れるように呟くと、魔物は哀れみの眼差しを私に送る。言われた通り、あのブレスレッドを身に着けるようになってからだ。私の聖女の力に異変が起きたのは。
「あれ? でも、それならなぜ、魔物使いの力は抑えられなかったのかしら?」
【聖女の力はアナスタシアの内にある魔力から溢れる特殊能力だけど、魔物使いっていうのはそういうのじゃなくて、生まれ持った才能だからじゃないかな】
なるほど。魔力を使わないものに関しては、呪いが発動しなかったのね。
【でもよかったね。この呪いがあまり上等なものでなくて。一流の呪術師がかけた呪いは解呪方法がすごく難しいって聞くけど、そういった呪術師は大抵本人に呪いをかけるらしいから。石に頼ってる時点で大した呪いではなかったんだよ】
「逆を言えば、このブレスレッドさえ外していれば、もっと早く呪いを解けていたってこと……?」
【まぁ……そうなるね】
最悪だ。私は私自身で、大事な力を封じ込め続けていたなんて。
少しでも外しているとアンジェリカが「せっかくあげたのに着けてくれない!」と大袈裟に騒ぎ立てるものだから、面倒で肌身離さずつけていた。……それとは別に、純粋にプレゼントしてくれたことが嬉しいっていう気持ちも、当時あったのは事実。
あれもすべて、私に呪いをかけるための作戦だったのね。毎日ブレスレッドをつけている私を見て、きっとアンジェリカは心の中で私を嘲笑っていたに違いない。
【げ、元気出して! もう君は呪いから解放されたんだ! これからは思う存分、聖女として活躍できるよ! 魔物使い兼聖女だなんて、世界中探してもアナスタシアくらいだよ!】
あまりに落胆していたからか、魔物が私を慰めてくれた。魔物にとって聖女なんて厄介な存在でしかないのにこうも優しい言葉をかけてくれるなんて――この子、絶対にいい子だわ。
【ありがとう。すっかり痛みが引いたよ】
「えっ?」
急に声が聞こえて、私は手から魔物へと視線を向ける。
「あなた、話せる魔物だったの?」
【うん。それにしても驚いた。本当に、魔物の声が聞こえる人間に出会えるなんて】
私は魔物使いの力を持っているためか、昔から魔物と意思疎通ができる。ほかの人にはただの鳴き声にしか聞こえないだろうが、私にはなにを言っているのかわかるのである。
自分が魔物使いだということに気が付いたのも、幼い頃、魔物が棲みつく森にお母様が結界を張りに行くのに同行した際、魔物の声が聞こえたのがきっかけだ。
長年生きている上級の魔物ともなれば、周囲の人間に強制的に言葉を聞かせることも可能というが、ほとんどの魔物はそれができない。
逆に幼すぎる魔物だと、まだ言葉自体をはっきり理解しておらず、ほとんど会話にならなかったりする。人間の赤ちゃんと同じで、魔物も成長と共に言語を理解していくというわけだ。
この子は犬だったらそこそこ大きめサイズだけれど、魔物としてはそこまでじゃあない。だから、まだ話せないのかと思っていた。実際ここまで一言も会話がなかったし……。
【僕、君のこと知ってるよ。王都に世にも珍しい魔物使がいるって。名前はたしか――アナスタシア】
「……正解。すごい。ここまで私の名前が広がってるなんて」
知らないうちに、魔物界で私は有名人になっていたようだ。
【アナスタシア。どうして君がこんなところに? 自分で言うのもなんだけど、ここは魔物にとっては天国だけど、人間にとっては決していい場所じゃないよ】
「知ってる。私、今日からこの村で暮らすことになったの。……婚約破棄された挙句、王都を追放される羽目になっちゃって」
【えぇ!? どうしてそんなことに……。国にとって、聖女は大事な存在なはずだろ?】
苦笑しながら言う私に、魔物は驚いて目を丸くした。
「私、聖女として半人前どころか……ほとんど聖女じゃないに等しい存在だったから」
【なに言ってるんだ。だったら、今僕の傷を治せるわけがない】
「うーん……。それに関しては、私も不思議に思ってるのよねぇ」
なぜ急に光が発動したのかなんて、私が聞きたい。首を捻らせて考えていると、魔物がまた口を開く。隙間から見える小さな牙が可愛らしい。ほかの人が見ると、怖いと思うのかしら……って、今はそんなことどうでもいいか。
【……君、もしかして、黒い石のついたブレスレッドをつけていた?】
「……え?」
それって、私がアンジェリカにプレゼントされた物のことだろうか。
「つけていたけど、ちょうどあなたに会う前に村の入り口付近に捨てちゃったわ。……それがなにか?」
【やっぱり! あれは君がつけていたのか! この男に見つかる前、僕はそのブレスレッドを見つけたんだよ。魔法石特有の匂いを感じてね】
――魔法石?
「あれは天然石じゃあないの? アンジェリカにもらった時、天然石だと聞いていたんだけど」
私が言うと、魔物は首を横に振る。
【あれは呪いの魔力が込められた立派な魔法石だよ。君はたぶん、そのアンジェリカって人に呪いをかけられていたんだろうね】
「……なんですって?」
この世界には聖女という存在もあれば、ほかにもあらゆる特殊な職業がある。魔法使い、騎士、格闘家、薬師――そして裏社会の闇職業、呪術師なんかも存在していると聞いた。
まさかアンジェリカは、わざわざ闇ルートから呪術師と繋がって……もしくは近しい人間に頼んだか、闇市に身分を偽って赴いたか……そうやって、石に呪いをかけていたってこと?
そんなことしない、と言い切れないどころか、寧ろあの子ならやってのけそうだとすら思える。私を蹴落とすためなら、犯罪にすら手を染める。……本当に罰せられるべきは妹だというのに、考えれば考えるほど、私の周りには馬鹿な人たちしかいなかったみたいだ。
【呪いの内容も、この状況を見れば大体見当がつく。大方、聖女としての力を呪いで無理矢理抑えこんでいたんだろう。魔力を封じたり、その人自身が持つ特殊能力を抑え込む呪術でね。身に覚えはない? ブレスレッドをつけてから、急に力が弱くなったとか】
「……覚えがありすぎて眩暈がするくらいよ」
頭を抱えて項垂れるように呟くと、魔物は哀れみの眼差しを私に送る。言われた通り、あのブレスレッドを身に着けるようになってからだ。私の聖女の力に異変が起きたのは。
「あれ? でも、それならなぜ、魔物使いの力は抑えられなかったのかしら?」
【聖女の力はアナスタシアの内にある魔力から溢れる特殊能力だけど、魔物使いっていうのはそういうのじゃなくて、生まれ持った才能だからじゃないかな】
なるほど。魔力を使わないものに関しては、呪いが発動しなかったのね。
【でもよかったね。この呪いがあまり上等なものでなくて。一流の呪術師がかけた呪いは解呪方法がすごく難しいって聞くけど、そういった呪術師は大抵本人に呪いをかけるらしいから。石に頼ってる時点で大した呪いではなかったんだよ】
「逆を言えば、このブレスレッドさえ外していれば、もっと早く呪いを解けていたってこと……?」
【まぁ……そうなるね】
最悪だ。私は私自身で、大事な力を封じ込め続けていたなんて。
少しでも外しているとアンジェリカが「せっかくあげたのに着けてくれない!」と大袈裟に騒ぎ立てるものだから、面倒で肌身離さずつけていた。……それとは別に、純粋にプレゼントしてくれたことが嬉しいっていう気持ちも、当時あったのは事実。
あれもすべて、私に呪いをかけるための作戦だったのね。毎日ブレスレッドをつけている私を見て、きっとアンジェリカは心の中で私を嘲笑っていたに違いない。
【げ、元気出して! もう君は呪いから解放されたんだ! これからは思う存分、聖女として活躍できるよ! 魔物使い兼聖女だなんて、世界中探してもアナスタシアくらいだよ!】
あまりに落胆していたからか、魔物が私を慰めてくれた。魔物にとって聖女なんて厄介な存在でしかないのにこうも優しい言葉をかけてくれるなんて――この子、絶対にいい子だわ。