我慢ばかりの「お姉様」をやめさせていただきます~追放された出来損ない聖女、実は魔物を従わせて王都を守っていました。追放先で自由気ままに村づくりを謳歌します~
「……ふっ! あははっ!」
すると、急に笑いが込み上げて止まらなくなる。
一週間前まで、まさか私がこんな目に遭うとは思わなかった。オスカー様と結婚できるかも……なんて浮かれていた話が今や、家無しの一文無しで罪人扱い。婚約破棄と言われたときは最初こそショックを受けたものの、ここまでくると開き直ってくる。もはや――なにも知らない馬鹿な家族とオスカー様が、かわいそうに思えるほどだ。
「……どうして魔物を捕まえられたのか、ですって?」
さっきアンジェリカからされた質問を復唱し、私はほくそ笑む。
――私には、誰にも言っていない秘密があった。私は聖女としれの目覚めも遅く、その力を成長させることはできなかったが……代わりにべつの特別な力を持っていた。
それは、世にも珍しい〝魔物使い〟の力。その名の通り、魔物を従え操ることができる人間。
ついでにもうひとつ。みんなが気づいていない事実がある。妹のアンジェリカは、お母様のような強大な力を受け継いでいない。彼女の聖女レベルはよく言って中級――実際には、下級聖女といえる位置だろう。
お母様の代わりに王都の森の結界を任されていたアンジェリカ。だけど実際、彼女が森全体に結界を張ることなど不可能。できたとしても、ものの数分で破られてしまうくらいの僅かな結界にしかならない。それなのに、なぜ王都は守られていたのか――ここまで言えば答えは簡単。同行していた魔物使いの私が、森から出て人間を襲わないように魔物たちに言い聞かせていたからだ。
幼かったこともあり、最初は魔物使いとしての自覚がなかった私は、アンジェリカに同行するたび、どこかから聞こえる声の正体がずっと気になっていた。そして、結界を張ったアンジェリカが帰ったあとひとりで森に残ると……魔物が私の前に姿を現した。ようやく私は、声の主が魔物だということに気づいたのだ。
姿を見る前から心を通じ合わせていたせいか、不思議と魔物を怖いと思わなかった。魔物たちは、〝魔物使い〟の人間を感知することができるらしい。魔物にとって、出会った時から私は主なのだと教えてくれた。そうして魔物たちは私に、アンジェリカが結界が張れていないことも伝えてくれたのだ。まずいと思った私は、魔物たちに森から出ないようお願いした――。
私が聖女として目覚めるずっと前から、そうやって王都を守ってきた。定期的に森に足を運んでは魔物たちと交流を図り、平和を保ってきたのだ。
……アンジェリカは、私を追ってつい森を飛び出してきた魔物を宥めていた瞬間を偶然目撃したのだろう。そしてそこから、私を陥れるための糸口を掴んだ。
私は妹を妬んで結界が破られたという偽造をしたかったのではない。むしろ妹の代わりに、不安定な結界から魔物が出てこないよう言い聞かせていたというのに。
「私を苦しめようと思ってこの村へ追放したのだろうけど、それは大きな間違いだったわね」
終末の村は、昼夜問わず魔物が溢れる危険な場所。しかし、私にとっては魔物だらけというのは、イコール味方だらけということだ。
「……もうなにも我慢しなくていいんだわ! だって、私は自由だもの!」
両手を掲げて、私は叫ぶ。
『最強聖女アリシアの娘』『双子の〝姉〟のほう』『第三王子オスカーの婚約者』――。
自分を窮屈にさせていたすべての肩書から解放された私は、ずっと身に着けていたいつかの思い出のブレスレッドを思いきり投げ捨てると、淀んだ空気に似合わない笑い声を響かせて、終末の村へと駆けて行った。
すると、急に笑いが込み上げて止まらなくなる。
一週間前まで、まさか私がこんな目に遭うとは思わなかった。オスカー様と結婚できるかも……なんて浮かれていた話が今や、家無しの一文無しで罪人扱い。婚約破棄と言われたときは最初こそショックを受けたものの、ここまでくると開き直ってくる。もはや――なにも知らない馬鹿な家族とオスカー様が、かわいそうに思えるほどだ。
「……どうして魔物を捕まえられたのか、ですって?」
さっきアンジェリカからされた質問を復唱し、私はほくそ笑む。
――私には、誰にも言っていない秘密があった。私は聖女としれの目覚めも遅く、その力を成長させることはできなかったが……代わりにべつの特別な力を持っていた。
それは、世にも珍しい〝魔物使い〟の力。その名の通り、魔物を従え操ることができる人間。
ついでにもうひとつ。みんなが気づいていない事実がある。妹のアンジェリカは、お母様のような強大な力を受け継いでいない。彼女の聖女レベルはよく言って中級――実際には、下級聖女といえる位置だろう。
お母様の代わりに王都の森の結界を任されていたアンジェリカ。だけど実際、彼女が森全体に結界を張ることなど不可能。できたとしても、ものの数分で破られてしまうくらいの僅かな結界にしかならない。それなのに、なぜ王都は守られていたのか――ここまで言えば答えは簡単。同行していた魔物使いの私が、森から出て人間を襲わないように魔物たちに言い聞かせていたからだ。
幼かったこともあり、最初は魔物使いとしての自覚がなかった私は、アンジェリカに同行するたび、どこかから聞こえる声の正体がずっと気になっていた。そして、結界を張ったアンジェリカが帰ったあとひとりで森に残ると……魔物が私の前に姿を現した。ようやく私は、声の主が魔物だということに気づいたのだ。
姿を見る前から心を通じ合わせていたせいか、不思議と魔物を怖いと思わなかった。魔物たちは、〝魔物使い〟の人間を感知することができるらしい。魔物にとって、出会った時から私は主なのだと教えてくれた。そうして魔物たちは私に、アンジェリカが結界が張れていないことも伝えてくれたのだ。まずいと思った私は、魔物たちに森から出ないようお願いした――。
私が聖女として目覚めるずっと前から、そうやって王都を守ってきた。定期的に森に足を運んでは魔物たちと交流を図り、平和を保ってきたのだ。
……アンジェリカは、私を追ってつい森を飛び出してきた魔物を宥めていた瞬間を偶然目撃したのだろう。そしてそこから、私を陥れるための糸口を掴んだ。
私は妹を妬んで結界が破られたという偽造をしたかったのではない。むしろ妹の代わりに、不安定な結界から魔物が出てこないよう言い聞かせていたというのに。
「私を苦しめようと思ってこの村へ追放したのだろうけど、それは大きな間違いだったわね」
終末の村は、昼夜問わず魔物が溢れる危険な場所。しかし、私にとっては魔物だらけというのは、イコール味方だらけということだ。
「……もうなにも我慢しなくていいんだわ! だって、私は自由だもの!」
両手を掲げて、私は叫ぶ。
『最強聖女アリシアの娘』『双子の〝姉〟のほう』『第三王子オスカーの婚約者』――。
自分を窮屈にさせていたすべての肩書から解放された私は、ずっと身に着けていたいつかの思い出のブレスレッドを思いきり投げ捨てると、淀んだ空気に似合わない笑い声を響かせて、終末の村へと駆けて行った。