我慢ばかりの「お姉様」をやめさせていただきます~追放された出来損ない聖女、実は魔物を従わせて王都を守っていました。追放先で自由気ままに村づくりを謳歌します~
「わ、私、なにもしてないわよね? もしかして、あなたがなにか手を下したの?」
振り返って魔物に問うが、魔物は首を左右に振って否定する。
急に倒れた男が心配になり駆け寄ると、男はものすごい量の汗をかき、苦しそうに呼吸をしている。
「……すごい熱だわ!」
額に手を乗せれば一瞬でわかるほどの高熱。すぐにどこかで寝かせないと、よけいに熱が悪化してしまうことだろう。
「ねぇ、この辺にゆっくり休める安全な場所はない⁉」
魔物に聞くと、魔物は鼻をひくひくと動かせてあちらこちらに身体を向けている。そしてどこか見つけたのか、急に走り始めた。私は倒れた男をなんと肩に抱えて、魔物の後を追う。多少意識はあるのか、男も僅かな力で身体を動かしてくれた。
案内された場所は、小さな洞穴だった。しかし奥行きはしっかりあり、ひとけもなく休むにはじゅうぶんな場所だ。生活に必要な最低限の物さえ調達すれば、しばらくのあいだここに住めそうな気もする。いい場所を教えてもらえた。
私は男を寝かせると、ワンピースのポケットに入れっぱなしだったハンカチを近くの川で濡らして、男の額の上に置いた。すぐ熱くなるため、定期的にハンカチを濡らしに外に出る。水を汲んで置ける桶のようなものがあればいいのだけど……容体が落ち着いたら、この付近をいろいろ探索してみよう。
そうこうしているうちに、男の口から発せられていた小さな呻き声は聞こえなくなり、代わりに規則正しい寝息が聞こえるようになった。熱はまだ高そうではあるが、横になったことで少しラクにはなったみたい。
「そういえば、あなたも怪我をしていたわよね」
そう言って、隣で一緒に男を見守ってくれていた魔物に視線を落とす。黒い毛で覆われた身体――背中の部分に、やはり痛々しい切り傷が残っていた。
私はどうにかして、魔物の傷も治療してあげたいと思った。だが、治療できる道具はなにもない。ワンピースの裾部分を千切って傷口を巻いておけば、多少はマシになるだろうか。
「痛いと思うけど……ちょっと我慢してね。傷を見るだけだから」
血は止まっているか、どのくらいの範囲が切られているか。もっとよく見ようと思い、私は魔物を自分の膝の上に乗せる。大型犬くらいの大きさなので、ちょうど背中部分が膝に乗っているような感じだ。
……前みたいに聖女の力がきちんと使えていたら、これくらいならすぐ治せそうなのに。
傷口を見ながら私思う。一年前から、私は聖女としてまったく機能できなくなるほど、急速に力がなくなってしまった。原因はわからないが、あまりにも遅咲きだったため、完全に力が開花できなかったのではないか……なんて、周囲からは言われていたけれど。
「こうすれば手から光が出て……」
私は聖女の力がまだちゃんと働いていた時のように、魔物の傷口に手をかざしてみる。
「……あれ」
すると、驚きの光景が目の前に広がった。ほぼ出なくなっていた聖女の光が、はっきりと私の手から輝きを放っているではないか。
魔物の傷口はその光によって、あっという間に塞がっていく。
「どういうこと?」
振り返って魔物に問うが、魔物は首を左右に振って否定する。
急に倒れた男が心配になり駆け寄ると、男はものすごい量の汗をかき、苦しそうに呼吸をしている。
「……すごい熱だわ!」
額に手を乗せれば一瞬でわかるほどの高熱。すぐにどこかで寝かせないと、よけいに熱が悪化してしまうことだろう。
「ねぇ、この辺にゆっくり休める安全な場所はない⁉」
魔物に聞くと、魔物は鼻をひくひくと動かせてあちらこちらに身体を向けている。そしてどこか見つけたのか、急に走り始めた。私は倒れた男をなんと肩に抱えて、魔物の後を追う。多少意識はあるのか、男も僅かな力で身体を動かしてくれた。
案内された場所は、小さな洞穴だった。しかし奥行きはしっかりあり、ひとけもなく休むにはじゅうぶんな場所だ。生活に必要な最低限の物さえ調達すれば、しばらくのあいだここに住めそうな気もする。いい場所を教えてもらえた。
私は男を寝かせると、ワンピースのポケットに入れっぱなしだったハンカチを近くの川で濡らして、男の額の上に置いた。すぐ熱くなるため、定期的にハンカチを濡らしに外に出る。水を汲んで置ける桶のようなものがあればいいのだけど……容体が落ち着いたら、この付近をいろいろ探索してみよう。
そうこうしているうちに、男の口から発せられていた小さな呻き声は聞こえなくなり、代わりに規則正しい寝息が聞こえるようになった。熱はまだ高そうではあるが、横になったことで少しラクにはなったみたい。
「そういえば、あなたも怪我をしていたわよね」
そう言って、隣で一緒に男を見守ってくれていた魔物に視線を落とす。黒い毛で覆われた身体――背中の部分に、やはり痛々しい切り傷が残っていた。
私はどうにかして、魔物の傷も治療してあげたいと思った。だが、治療できる道具はなにもない。ワンピースの裾部分を千切って傷口を巻いておけば、多少はマシになるだろうか。
「痛いと思うけど……ちょっと我慢してね。傷を見るだけだから」
血は止まっているか、どのくらいの範囲が切られているか。もっとよく見ようと思い、私は魔物を自分の膝の上に乗せる。大型犬くらいの大きさなので、ちょうど背中部分が膝に乗っているような感じだ。
……前みたいに聖女の力がきちんと使えていたら、これくらいならすぐ治せそうなのに。
傷口を見ながら私思う。一年前から、私は聖女としてまったく機能できなくなるほど、急速に力がなくなってしまった。原因はわからないが、あまりにも遅咲きだったため、完全に力が開花できなかったのではないか……なんて、周囲からは言われていたけれど。
「こうすれば手から光が出て……」
私は聖女の力がまだちゃんと働いていた時のように、魔物の傷口に手をかざしてみる。
「……あれ」
すると、驚きの光景が目の前に広がった。ほぼ出なくなっていた聖女の光が、はっきりと私の手から輝きを放っているではないか。
魔物の傷口はその光によって、あっという間に塞がっていく。
「どういうこと?」