世界くんの想い人
(うーん……そろそろ一度……)

私はここ一カ月ほど買ったまま紙袋に入ったままのソレを頭に浮かべながら、小さくため息を吐きだした。

(いやでも……多忙だし……ストレスかもだし。前だってこんなことあったし……でももう……)

私はスマホを取り出すと生理周期管理アプリ『ルーナルナ』をチラッとのぞく。

「それにしても、やっぱ……遅れすぎよね……」

私は湯飲みに入っているルイボスティーに口づけた。私が緑茶を控えるようになってから二カ月が過ぎている。

(まさか……ね?)

そう思いながらも思い当たることならいくらでもある。結婚してからというもの、以前にもまして世界の噛みつきスピードは増している。

私は世界がニヤッと笑いながら犬歯を研いでいる姿を想像しかけて慌ててかき消した。

「……だめよ梅子、噛みつきワンコよりも今は目の前の見積に集中しなきゃ」

私は誰にも聞こえない声で気合を入れると、また高速でパソコンを叩いていく。

今日の見積課も相変わらず忙しい。

私は育児中の部下数人の見積の残りを猛スピードで作成していく。カタカタと夢中でパソコンに向かっていれば、明菜がデスクから立ち上がるのが目の端に見えた。

「梅将軍おつかれさまです、先あがりますね」

「うん、お疲れ様。あれっ、もう二十時回ってるじゃないっ、ごめんね、気づかなくて……」

「いえいえ。私はちょうどキリ良く終わったので」

明菜の右手の薬指には最近指輪が光るようになった。思わずほほえましくて私はふっと笑った。

「え?梅将軍どうかしました?」

「明菜ちゃん最近すっごく幸せそう。私もすごく嬉しい」

直ぐに明菜が頬を染める。

「は、恥ずかしいです……」

「結婚式には呼んでよね?」

「えーと。まだ付き合って半年なので……。でも梅将軍と御堂部長見てると結婚に憧れちゃいます」

御堂部長という言葉と結婚のワードに今度は私が頬を染めた。
< 1 / 9 >

この作品をシェア

pagetop