世界くんの想い人
「えっと……その新婚で……年上なのに、その……奥さんとして何もしてあげられてないなって……料理もほとんど世界くんが作ってくれてるし……」

私の言葉に世界がケラケラ笑った。

「ぷっ。ぼーっとしてると思ったら、そんなこと気にしてたんすか?俺の奥さんは」

「そんなことって……仕事ばっかりで……その、家事できてないから」

世界がご馳走さまでしたとスプーンを置くと、直ぐに私の隣に座りなおした。

「あのさ、共働きなんてそんなもんでしょ?どっちかがやればいいし、俺前から言ってますけど料理好きだし、梅子さんが美味しいって食べてくれるの見るのも好きだし、一生懸命見積り作ってる梅子さんも好きだから」

「でも……」

世界に優しくされると直ぐに瞳に膜が張る。世界が困ったように笑った。

「そんな気になるんなら、週末作ってよ。豚キムチチャーハン」

「え。そんな簡単なのでいいの?」

「俺、あれ好き。あ、でも作ってる最中、勿論味見するんで覚悟してね」

「あ……」

「やば。マジでそうゆう顔、急にしないでくれます?」

「え?」

世界の言葉の意味を理解しようとする前に、世界が私の体をぎゅっと抱きしめた。

「ねぇ……デザート食べていい?」

「へ?デザート?」

私は咄嗟に冷蔵庫の中に入っているプリンを頭に思い浮かべた。

週末二人でスーパーに行ったとき買った、暴れすぎ将軍監修の『暴れる程うまいプリン』一つ189円(税抜き価格)のお高めスイーツだ。

世界の手をほどき立ち上がろうとした私の手首を掴むと、世界があきれたように目を細めた。

「あのさー……俺が今すぐ食べたいの、『暴れる程うまいプリン』じゃないっすから」

「違うの?」

「マジで鈍いっすね、来いよ」

「きゃあ!」
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