世界くんの想い人
梅子がスカートのポケットからスティック状のものを取り出すと俺の掌にそっと乗せた。そのスティックにはピンク色の線が二本ついている。

「ん?これなに?」

「あのね……その……あかちゃん……でき……てたの……」

「へ?」

俺は思ってもみない梅子の言葉に目がまん丸になる。

「ここ二カ月……その生理遅れてて……その忙しかったからストレスかなとか思ってたんだけど、さっき吐き気がしてもしかしたらって」

俺はもう一度スティックを眺める。この手のことは全く知識がなくてわからないが、おそらくこのピンク色の線が妊娠している証なんだろう。

「でも世界くん……まだ二十六だし、その子供とか困ったりしないかなってちょっと不安になって……私……」

梅子がさっきから困った顔をしている理由を全て察した俺は、梅子をすぐに腕の中に閉じ込めた。

「嬉しいに決まってんでしょ」

「え?」

梅子が俺を見上げる。俺はすぐに梅子の頬に触れた。

「俺、家族っていうのにすげぇ憧れててさ。結婚願望も元々めちゃくちゃあったけど……お父さんがいてお母さんがいて子供がいてさ、毎日たわいない事で笑って同じご飯食べて眠って、そんな小さな幸せを積み重ねて繰り返せる暮らしをずっと夢見てたから」

梅子の目じりにはまた涙が滲む。

俺は梅子のペタンコのお腹にそっと触れた。
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