世界くんの想い人
「ありがとう。俺と梅子さんのとこにきてくれて。一生大事にする」

「……世界く……ん……ひっく」

「あー……なんで泣くんすか。しょうがないな」

俺は梅子の涙をすべて掬うとそっとキスを落とした。

「もうママなんすから、あんまり泣いたら赤ちゃんも心配するでしょ」

「私……」

「そんな顔しなくても仕事やめろなんて言いませんし、これまで以上に家事俺やるし、育休も一緒にとろ。俺も一緒に子供育てたいしさ」

梅子が何度も頷くと俺の背中をぎゅっと握りしめた。そのあたたかさはいつもと同じなのに、なぜだか二人分あたたかく感じる。

俺はまだ小さな卵の我が子に想いを馳せて、ふっと笑った。

「どっちに似てますかね?」

梅子が俺をみつめると眉を下げた。

「どうしよう……噛みつかれたら……」

「あはは。俺そっくりの男の子だったらありえますね」

「二人から噛まれるってこと?」

「そうすね。そもそも噛むって最上級の愛情表現でしょ。幸せモノっすね、梅子さんは」

「……ちょっと……噛むことを正当化しないでよ……」

「てゆうか」

俺は梅子のブラウスのボタンを一つ外すと鎖骨に唇を寄せた。梅子がわずかにビクンと震えて唇を離せば小さな赤い痕がくっきりとついた。

「赤ちゃん生まれたら絶対かまってもらえねぇし、今のうちに噛んどかないと……」

「えっ!ばか、遠慮しなさいよ!」

「は?なんで好きな女噛むの遠慮しなきゃいけねぇんだよ」

俺が眉を顰めると梅子が俺の鼻先を指先でツンと押した。

「世界くんだって、パパになるんだからっ……ちょっとは『待て』覚えなきゃでしょ」

「え?それどういう意味?まさかセックスしないって言ってるわけじゃないっすよね?」

「うーん、どうかしら?」

「マジかよ!それ切腹案件なんすけど?」

梅子がクスクス笑いながら、俺の腕からするりと抜け出すと、冷蔵庫からプリンを取り出した。

「なんか冷たいモノ食べたくなっちゃった。世界くん、一緒に『暴れる程うまいプリン』たべよ?」

その飾らない笑顔に俺の心臓はとくんと跳ねる。

梅子の笑顔は何度見ても見飽きない。梅子との暮らしは想像以上に幸せで毎日が本当に愛おしい。この幸せな暮らしの中にまだみぬ我が子が加わるなんて俺は『世界一の幸せ者』だ。

「世界くん、はやく」

「はいはい」

俺は梅子のとなりに座ると、梅子の美味しそうに食べる姿に目を細めながら、プリンを放り込んだ。

──その味は甘ったるくてクセになる、梅子とのキスの味によく似ていた。






おしまい🐎……🐕💓


2023.4.16 遊野煌

※フリー素材です
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