溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
 朝の日差しに目覚めた優子の目に映ったのは、見慣れたアパートの天井ではなかった。

 細工を施された高い天井に、大きな窓。
 吊り下がるジャガード織のカーテンはピンクを基調とした花柄で、たっぷりと房のついたタッセルで止められている。

 レースのカーテン越しに入ってくる日差しは柔らかい。

 甘い花の香りが鼻腔をくすぐる。
 見れば窓の間の白い壁には猫足のキャビネットがあり、大きな花瓶にはたっぷりと薔薇が生けてあった。

 いったいここはどこなのか。

 おそるおそる、起きあがると――。高速で頭の中にある記憶が襲っていた。

(な、なにこれ)

 誰かが呼ぶ『麗華』『麗華お嬢様』
 心で叫ぶ『なによあの女!』『流星様は私のものよ!』

 すべて、優子が知らない記憶だ。

 頭がおかしくなってしまったのかと混乱し恐怖した。

「誰か! た、助けて!」
 悲鳴とともに頭を抱え、ふと気づく。

「なに、この髪……」
 肩に触れないくらいの長さであるはずの髪が、胸の下まである。

「お嬢様! どうなさいました!」
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