溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
 飛び込んできたのはメイド服の若い女性。誰か知らないはずなのに、脳内の記憶が、彼女は侍女の小桃だと教えてくれた。

「わ、私」
「麗華お嬢様? な、なにがあったのでございますか?」

 きっと夢だ。疲れているに違いない。今日は土曜日で大学は休み。思う存分ゆっくり寝ようと思った。

 小桃が額に手をあてる。

「まだお熱が下がらないのですね」
 どうやら、高熱を出していた。


 それから三日経った。

「お嬢様、具合はいかがですか?」

 心配そうに顔を覗き込むのは侍女の小桃。丸い額には幼さが残っている。

 働き者の彼女はまだ十五歳になったばかり。立派に働いていてえらいな、と感心しつつ「大丈夫、ありがとう」とお礼を言った。

 小桃は仰天して、恐ろしいものでも見たように一歩下がる。
「えっ……お。お嬢様?」

 お礼の言葉に驚いたのか、目を大きく見開いている。
 そんな驚かなくてもと苦笑すれば、その顔も怖かったらしい。

「あ、危ないっ」
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