溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
 時折目覚めては、まだ夢の中にいるのかと納得し、また眠りに落ちを繰り返し、三日後熱が下がってようやく現実だと受け入れた。

 つねれば痛いし、お腹も空く。物語の中で生きている。

 どうせならヒロイン小百合になりたかった。
 それが無理ならモブキャラでいい。小百合に仕える女中でもよかったのに、憑依したのはよりによって、罵倒し続けていたヒール役だとは。

 高熱を出した理由だって酷い。
 麗華は小百合を池に突き落そうとして足を滑らせ、代わりに自分が落ちてしまったのだ。

 ただもう、呆れるばかりである。

『意地悪ばっかりしてるから、天罰だ』と夢うつつで文句を言うと、『私の気持ちになってごらんなさいよ』と、脳裏で誰かが答えた。

 あれは、麗華だったのか。

(麗華――。あんたの気持ちなんかわかんないよ。私、あんたが大嫌いだったんだもの)

「はぁ……」
 頭を抱えていた手を離して瞼を上げると、鏡越しに小桃と目が合った。

「お嬢様、大丈夫ですか?」
 相変わらず怯えているのか、慌てて視線を伏せる。
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