溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
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馬車に揺られながら、小説の内容と麗華の記憶を復習する。
今夜の舞踏会は外務省主催だ。
皇族の方々や海外の要人も多く参加するため、主だった華族は全員参加する。
原作では麗華が小百合にわざとワインをかけてドレスを汚したり、一条流星につきまとい強引に一緒にダンスをしてもらって、婚約者のように振る舞う。
麗華はとても焦っている。
二カ月後の十八歳の誕生日になんとしても結納を交わしたいが、流星の気持ちが一向に麗華に向かない。
相反するように、流星と小百合の距離は縮まっていく。
それが手に取るようにわかり、悔しくて仕方がないのだ。
一年前、孤児たちへのチャリティ懇親会で、流星と小百合は運命的な出会いを果たしている。
チャリティーに、小百合は心を込めて刺繍を施したハンカチを十枚と絵本を十冊出していて、ハンカチの刺繍仕上がりはとても美しかった。
麗華はどうかといえば、手持ちのアクセサリーの中から不要になったもの。心がこもっているとは言い難い。
参加者は小百合を褒め称えた。
麗華はそれが悔しくて、小百合からハンカチを奪い取り踏みつけようとする。