溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
 娘を溺愛する両親のためにも、荒鬼麗華の人生を変えなければならないと、心に誓う。

 なんとしても、絶対に。


「ごきげんよう」
 顔見知りの人々に声をかけながら、母の後ろを進む。

 頭の中には麗華の記憶があるので困ることはない。適当に話を合わせながら会場内に視線を巡らせる。

 最初に探したのは麗しの婚約者、一条公爵家の一人息子、一条流星。

 皇族の次に高い身分である公爵家は、帝国に三家しかない。

 次期公爵を約束され、すでにいくつかの事業の経営者でもある彼は、独身男性の中で花婿候補ナンバーワンの人気だ。

 だが、クールな彼は、やむを得ず参加する以外は、舞踏会などに顔を出さないし、女性に興味を示さない。

 麗華との婚約も彼の親が一方的に決めた。

 小説は小百合視点で書かれていて、流星の心情は描かれていない。

 麗華を疎ましく思っていたには違いないが、そもそもどうして縁談を受けたのか――。

 なにはともかく、この舞踏会で成し遂げなきゃいけないミッションはひとつ。

 一条流星に婚約破棄を申し出る。

 まずはそれからだ。
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