溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
ガス燈が、街並みを浮き上がらせる。
帰りの車の中。見つめても眩しくはない柔らかい灯りをぼんやりと見つめながら、麗華は落ち着いて舞踏会での出来事を振り返った。
『婚約破棄をするつもりはない』
ダンスが終わった後、彼ははっきりとそう言った。
『どうしてですか?』
今ならまだ口約束の状態だが、二カ月後、麗華の十八歳の誕生日に結納を済ませたら、そう簡単に破談できなくなる。
『婚約破棄をしなければ、流星様は私と結婚しなきゃいけないんですよ?』
『君はおかしなことを言うな。結婚するから婚約したんだろうに』
『い、いや、ですから――』
なおも食い下がろうとしたのに、呼びに来た人がいて彼は行ってしまった。
『じゃ、また。ダンス楽しかったよ』
「麗華のダンス、とっても素敵だったわよ」
「会場中の目が麗華に釘付けだったな」
ハッとして振り向いた麗華は、ふふっと照れ笑いを見せた。
なにも知らない両親はご満悦の様子。
「本当にお似合いのカップルよね」