溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
「麗華どうしたの? 浮かない顔をして」

 顔を上げると、両親が心配そうに見つめていた。

「もしかして気にしているの? あなたは何も悪くないのに」
「気になるなら、高価なドレスを二着送ってやろう」

 慌ててにっこりと微笑んだ。
「大丈夫よ。私からなにかお詫びをしておくから」

 帰る直前、事件が起きた。

 思いがけない流星の態度に気が動転していた麗華は、なにも考えず急に体の向きを変え、その反動で、目の前にいたボーイにぶつかってしまったのだ。

『あっ』
 ボーイのトレイが倒れ、赤ワインが小百合の淡いクリーム色のドレスに大きなシミを作った。

 呆然と立ち尽くす麗華の前に立ったのは、その場を離れたはずの流星で、彼は汚したドレスの小百合を気遣い、燕尾服の上着を脱いで彼女にかけた。

『あ……、ありがとうございます』
『いえ、ちょうど帰るところなので、お送りしましょう』

 会場を後にするふたりの後ろ姿を脳裏に浮かべ、心がズキっと痛む。

 あんなふうに見せつけなくていいのにと、悔しくなる。
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