溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
 ダンスは自分が誘ったわけじゃない。彼から強引に誘われたのだ。

(これを機に振り向いてくれるのかと、ほんの少し期待しちゃったじゃない)

 でも、事実だけを見れば原作通りにイベントは起きている。

 もしかしたら、原作でもそうだったのだろうか。

 あきらめかけた麗華の気持ちを、彼が弄んだ?

 まさか彼は、女性を虜にする悪魔なヒーローなのか。

 美しい流星の面差しを夜空に浮かべると、ゾッとして喉の奥がごくりと音を立てた。

(もう二度と期待しないわ!)
 そう強く強く心に誓った。


 数日後。
 麗華は小百合の家である涼風男爵邸に向かった。

 小百合主催でお茶会がある。

 お茶会と言っても客が集まってお茶を飲むだけじゃない。
 オペラ歌手を呼び、客に招待状を送り、テーブルのセッティングやら軽食やデザートを用意するというすべてを小百合ひとりで務めるのだ。

 彼女はひとり娘で、歳は麗華と同じ十七歳。こういったお茶会を主催するのは今回が初めてだが、その若さで取り仕切るのだから立派である。
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