溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
 心が通じる友だちはたくさんいたが、手を振って別れると皆、温かい家族のいる家に帰る。
 家に居場所がない自分は、なにをよりどころにして生きていけばいいのかと、寂しさに震えていた。

(それに比べたら、流星様に愛されなくたって、麗華は十分幸せよ)

 つらつら考えるうち、人力車は涼風邸に到着した。


「いらっしゃいませ」

 出迎えの使用人が現れて間もなく、小百合が来るのが見えた。

(あっ、贈ったドレス着てくれた!)

 小百合が着ているドレスは、オフホワイトとベビーピンクの優しい色合いのドレスだ。胸もとのレースの花が可憐で、思った通り小百合によく似合っている。

「今日はお招きありがとう」

 戸惑っている様子ではあるが、頬を染めた小百合はどこかうれしそうだ。

「麗華さん、このドレスも、パティスリー・モリのお菓子も本当にありがとう」

 素直な物言いに、さすがいい子だと密かに感心する。

「どれもこれも美味しそうで、見た目もとっても素敵なの。薔薇の花をあしらったようなケーキがあって」
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