溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
「麗華さんの差し入れなんですってね。すごいわー、パティスリー・モリなんていつも混んでいて入れないのに」

 言わなくてよかったのに、小百合は律儀に皆に言ったらしい。

「小百合さんのドレスも麗華さんのプレゼントなんでしょう? とっても素敵」

「プレゼントじゃなくて、お詫びなの。ドレスを汚してしまったから」

「まあー麗華さんたら、優しいー」

 今日の主役は小百合なのに、やいのやいのと持ち上げられてお尻がモゾモゾする。

 口を閉じて周りに目を向けた。

 今日は女性だけでなく男性もいる。

 彼らは庭の大木の木陰で紅茶ではなく、ワインを傾けているようだ。

 見ればなぜか流星がいた。
(えっ? どうして彼がいるの?)

 小説に彼が登場したシーンは書かれていないはず。

 ここでは麗華が、オペラ歌手の失敗を笑い、小百合のドレスの継ぎ接ぎを見つけて笑い、出されたスイーツに手をつけず令嬢を引き連れて帰っただけだ。

 書かれていなかっただけで、実は流星もいたのか。

 驚きのまま凝視していると流星と目が合った。
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