溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
「私はお先に失礼するわ。皆さんはゆっくり楽しんでらして」

「ええ、麗華さん帰ってしまうの? 寂しいわ」

「ちょっと用事があって」
(邪魔者は消えないと)

 帰りがけに街を散策しようと思っている。
 まだ実際にこの目で銀座の街並みを見ていない。今日は天気がいいから、人力車の中から眺めてみたい。

「麗華さん」
 振り返ると小百合が追いかけてきていた。

「もう帰ってしまうんですか?」
「ええ。今日は楽しかったわ。ありがとう」

 小百合は驚いたように目を剥く。

(しまった。普通にお礼を言う麗華に慣れていないんだ)

「あっ、ご、ごめんなさい。こちらこそ、いろいろとありがとう」

 慌てる小百合に苦笑いを浮かべ、立ち去ろうとすると、いつのまにか流星がいた。

「帰るなら送ろう」

(なんですって?)

「い、いえ大丈夫です。人力車を待たせてあるので」

 送ってもらっている場合じゃない。

「ではおふた方とも、本日はありがとうございました」

 焦る麗華を尻目に、小百合はニコニコと無邪気に手を振る。
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