溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
 小百合は呼びに来た使用人と、足早に会場に戻っていく。

「えっ、さ、小百合さん?」

 流星を振り返ると、彼は小百合を追うでもなく麗華を見ている。

「人力車はそのまま帰らせたらいい。久しぶりに、ご両親にも挨拶したいし」

 ギョッとして、とっさにウソをついた。
「父も母も、今日は出かけていますし」

 彼は少し考える様子を見せた。
 その隙に行ってしまおうとすると、ガシッと腕を掴まれた。

「な、なんですか?」

「少し話をしよう」

(えっ……)

 何か言いたげにじっと見つめられると、それも当然かと思う。
 一方的すぎた。言うだけいって逃げるのは、彼に失礼だ。

 いい機会かもしれない。
 婚約解消に向けて、もう一度ちゃんと話をしようと気を取り直す。

「そうですね」

 流星がゆっくりと掴んでいた手を離す。

 ふと視線を落とせば、敷石の両脇に色とりどりの草花が咲いていた。

 荒鬼邸のように大理石の噴水はないが、池もあり、手入れが行き届いた美しい庭だ。

 振り返ると、小百合の後ろ姿が見えた。
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