溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
 彼女は令嬢たちと話をしている。

 麗華と一緒にいる流星が、気にならないのだろうか。

「今日、流星様もいらっしゃるとは思いませんでした」

 パラソルで顔を隠し、横を向いたまま聞いた。
 彼の目をこんなに間近で見る勇気はないから。

「君が来ると聞いたんでね」

 驚いて思わず振り向くと、彼は柔らかい微笑みで見つめ返してくる。

「なぜそんなに驚くんだ? 言っただろう? 努力するって」

 笑顔が眩しくて、慌てて目をそらした。

(まさか本気なの?)
 俄かに信じられず、唇を噛む。

 小百合に惹かれているはずなのに、さっきも彼女の前で『帰るなら送ろう』と、まるで気があるような発言をした。

 もしかして、小百合にヤキモチをやかせようとしているのか。

 女心を弄ぶ、悪魔なヒーロー……。
(気をつけなきゃ)

 彼は帝国でナンバーワンのモテ男だ。てっきり女性に興味がないと思い込んでいたが、実は恋愛のプロかもしれない。

 対して自分はといえば、優子であったときを含めて恋愛経験ゼロである。

 駆け引きを楽しむ余裕なんてないのにと、溜め息をつく。
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