溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
 麗華はうなずいた。

「彼はたまたま、園の裏庭で君が父上と話をしているのを見かけたそうだよ」

(そうだったのね)
 でも、だからといって小百合を傷つけた罪が消えるわけじゃない。

「荒鬼家の娘として、当然のことをしているまでです」

「君こそ、俺を買いかぶっているんじゃないのか? 俺のどこを見て相応しくないと?」

 ――それは、言うまでもない。

「流星さんは帝国の英雄です」

「能力があるから仕方なく戦っているだけだ」

 彼は穏やかに微笑む。

(仕方なく?)
 そんな言い方をされたら、反論しようがない。

「俺たちは、お互いを知らなすぎる」
 左腕を差し出した流星は「少し散歩をしよう」と言う。

 戸惑いながら麗華は右手を彼の腕に掛けた。


 奥に薔薇園が広がっていた。

 中央に丸い屋根の白い四阿があり、そこへ向けて歩道がくねりながら伸びている。

 腕にかけた手から微かに彼の温もりが伝わってきて、緊張のあまり大きく息を吸うと、むせかえるような甘い香りに体中が満たされた。
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