溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
 途中が薔薇のトンネルになっていて、くぐりながら「綺麗」と思わず口からこぼれる。

「君は薔薇が好きなのか?」

「はい。とても好きです。深紅の薔薇が特に」

 彼は「なるほど――」と意味深に間を置く。

「淡い色合いは好きじゃないんだな」

 そういうわけじゃない。本当は優しい感じのする淡い色の方が好きだ。

 強い色は毒々しく感じて、どちらかといえば苦手だったが、麗華を譬えるなら情熱的な深紅の薔薇だ。

 触れるものを鋭い棘で傷け赤い血をつけるところまで、麗華と深紅の薔薇はよく似ている。

 どう足掻いたところで、桜のような儚い美しさを秘めた小百合にはなれない。
 ならば今の自分を受け入れて、愛してあげたいと思っている。

「今度は気に入ってもらえるよう。――そうだ、君と一緒にドレスを買いに行こう」

 意味がわからなかった。
(今度は気に入って?)

 ようやく思い出し、ハッとして足を止めた。

(ドレス……)
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