溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
 小百合にあげて、彼女が今日着ていたドレスは、流星が麗華の十七歳の誕生日にと贈ってくれたプレゼントだったのだ。

 もらったときはうれしくて、しばらくはトルソーに着せて眺めていた。

 もちろん試着もしてみたけれど、どんなにがんばっても似合わなかった。
 見れば見るほどこのドレスを着る小百合が思い起こされて、結局クローゼットの奥にしまったのだ。

 彼は小百合を見て、自分がプレゼントしたドレスだと、気づいたに違いない。

(私ったら――、なんて失礼なことを)

「ご、ごめんなさい」
 慌てて彼の腕から手を離した。

「用事を思い出したので、失礼します」

 小走りに車庫へと向かった。

「麗華さん!」
 後ろから流星が呼ぶ声がするが、気にせず走った。

 彼の好意を、こんな形で無碍にするなんて。

(悪役らしくて笑っちゃう)

 ハハッと乾いた笑い声をあげた。

 小百合の手に渡り、むしろちょうどよかった。
 着るべき人に着てもらって、ドレスも、あのドレスを選んだ彼も本望だろう。
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