溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~

***


 もといた椅子に腰を下ろした流星は、溜め息をつく。

 手にしたパラソルは白いレースが幾重にもひだを作っていて、ぶつけたら簡単に壊れそうなほど恐ろく華奢だった。

 そっとパラソルのハンドルをテーブルに引っ掛ける。

 麗華の後ろ姿を思い出しながら、なにか怒らせるような発言をしてしまったのだろうかと考えた。

 一緒にドレスを買いに行こうと誘ったのがいけなかったのか。

 だとすれば、一緒に行きたくないほど嫌われてしまったということになる。

「どうした?」

 流星に気づいた悦巳が席に戻ってきた。

「麗華さんの家に行くんじゃなかったのか?」
「ん……。彼女は用事があるらしい」

 とは言ったものの、本当に用事があるとは思えない。
 急に誘ったのだから仕方がないが、並んで歩きはじめたときは嫌がっているようには見えなかった。

「なにがあったんだ?」
 自力では解決できそうもない。「実は――」と経緯を話して聞かせた。

「え? じゃあ小百合さんが今着ているドレスは」

 流星は溜め息混じりにうなずく。

「だけど、なんであのドレスなんだ? どう見てもあれが似合うのは麗華さんじゃなくて、小百合さんだと思うぞ?」

「以前、小百合さんがあんなふうなドレスを着ていて、彼女がジッと見ていたんだ、そういうドレスが着たいのかと思って」

 そのとき小百合が着ていたのは、薄い色合いのドレス。
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