溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
 本当なら絶対に出掛けたくないような、不気味な夜である。

「風流じゃないの」
 強かって言ってはみたものの、ピクピクと頬が引きつる。

 前と後ろに腕っ節の強い俥夫がいるので、心配ない。
 いや嘘だ。やはり怖いが、荒鬼家の未来がかかっている。

 最悪の場合自分が犠牲になっても、小桃や俥夫は助けなきゃいけない。
(私のせいなんだから)

 ほどなくして人力車が公園にさしかかったとき、「うわっー」と男性の悲鳴が聞こえた気がした。

(ん?)

「ぎゃー」
 声は公園の中から聞こえる。

「お、お嬢様、今、な、なにか」

 麗華と小桃はお互いにしがみつく。
「き、気のせいよ」とは言ったものの、聞こえたのは明らかな悲鳴だ。

「お嬢様――。いったん止まります」
 緊張した俥夫の声に「ええ……わかったわ」と答える。

 後ろから押していた俥夫も前に来た。

 止まった場所は公園の角。目的の入り口はここからおよそ十メートルほどか。
 あるはずのガス燈が点いておらず、夜の公園は闇に包まれていた。
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