溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
 身長一八〇はある俥夫が、影の胸もとにしか届かない。

「コッチヘ、コイ……」

 あれは人じゃない。
(どうして? 小百合を襲ったのは、ヤクザじゃないの?)

 ――鬼?

 もうひとりの俥夫が軽々と持ち上げられた瞬間だった。

「キィィィ」

 聞いたことがない奇妙な悲鳴が響き渡る。

 小桃とひしっと抱き合い、きつく目を閉じた。
 ズバッ、ドシッっと重たい音が幾つかして「大丈夫ですか?」と声がした。

 聞き覚えのある声に顔を上げると。

「え? 麗華さん?」

「りゅ、流星様?」

 流星が助けてくれたのだった。
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