溺愛されては困るのです ~伯爵令嬢、麗華の憂鬱~
 一週間前――。

「まったく」
 思わずひとりごちた優子は、スマートフォンの画面を睨んだ。

 読んでいるのは【ある日、彼女は恋に落ちた】という和風ファンタジーの恋愛小説だ。

 ヒロインは涼風小百合。
 涼風男爵の令嬢で、母親の身分が平民であるばっかりに上流階級でいじめに遭う。
 だが、公爵家の跡取り御曹司一条流星に見初められるというシンデレラストーリーだ。

 ヒーローは一条流星。
 一条公爵家の跡取り息子である彼は強い魔力を持っていて、帝国軍特科第九師団の若き師団長でもある。
 特科第九師団は魔物の〝鬼〟を相手に戦う。
 この世界には何種類かの魔物がいて、鬼が最強だ。流星のように異能を持つ人々だけが鬼を倒せる。
 中でも流星の魔力はずば抜けていて、百年に一度の逸材といわれていた。

 優子が眉をひそめるのは、悪女役の麗華という伯爵令嬢だ。
 流星の許婚だから、小百合の存在がおもしろくないのはわかるが、それにしても彼女への嫌がらせぶりがえげつない。
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