私、修道女になりたいのですが。。。 ー 悪役令嬢のささやかな野望？

我儘で浪費家で男遊びが激しく、アニメで一番の嫌われキャラだ。
　しかも、皇太子と婚約していた彼女はアニメのヒロインである義妹に皇太子を取られ、義妹を毒殺しようとして失敗。最後に皇太子によって斬首刑になる。
　アニメの中の登場人物になるなんてあり得るの？
　もし現実に起こっているなら、私は近い将来……死ぬ。
　思い切り頬をつねれば、あまりにも痛くて顔を顰めた。
「痛〜っ！」
「マリア様〜、寝てて下さい！」
　グレースが戻って来たかと思ったら、彼女の背後には医者らしき初老の男性がいた。
　グレースにベッドに戻され、仕方なく横になる。
「お医者さまをお連れしましたよ。先生、お願いします」
　グレースに声をかけられた医師がいくつか問診をしてわかったのは、私の年齢が十七歳で、一カ月以内に婚約の儀が行われるということ。婚約の儀というのはマリアと皇太子が正式に婚約したと国内外にお披露目する儀式で、私が斬首刑になるのはアニメによればその数日後だ。
「怪我はしばらくすれば治るでしょう。ですが、一部の記憶を失っています。明日戻るかもしれませんし、一生戻らないかもしれない」
「……そうですか」
　医師の言葉に小さく相槌を打つ。
　記憶なんてたいした問題ではない。だって、私は中村真理だもの。
　本当は元の世界に戻れるのか聞きたいけど、そんな話をしたら頭がおかしいと思われる。
　それに、戻ったところで、車に轢かれて死んでいるのではないだろうか。
　元の世界で私は死んだから、このアニメの世界に転生したんだ、きっと。
　でも、転生してすぐまた死ぬの？
　そんなの嫌だ。なんとか回避できないのだろうか？
「マリアが目覚めたというのは本当か？」
　恰幅のいい五十代くらいの男性が突然部屋に飛び込んできた。
　私の顔を見て、その男性は「よかった」と安堵する。
　この人は……あっ、マリアの父のグレンヴィル公爵。
「旦那様、マリア様は落馬の後遺症で一部記憶を失っています」
「なに、それは本当か？」
「私のことも覚えていませんでした」
　グレースの報告を聞いて、公爵はショックを受けた様子で額に手を当てる。
「皇太子殿下になんと申し上げればいいか」
「散々心配をかけて、本当にお騒がせな娘ね」