私、修道女になりたいのですが。。。 ー 悪役令嬢のささやかな野望?
公爵の後ろにはマリアの継母がいて、私を蔑むような目で見ている。
 彼女はマリアの母が亡くなってすぐに公爵の後妻になった。だから、前妻の娘のマリアを疎ましく思っているのだ。
「お母様、そんなことを言ってはいけないわ。お義姉様は大変だったのよ」
 継母の横にいる柘榴のような赤毛に漆黒の目をした美少女は、継母の連れ子でマリアの義妹のシャーロット。マリアよりひとつ下で市井の育ちだが、頭がいい。
 彼女がなにを隠そう『美形皇太子に溺愛されています』のヒロインなのだ。
 アニメと同じで気立てがよくて優しそう。
「あの……お父様、こんな状態では皇太子妃など務まりません。殿下との婚約を破棄したいのですが」
 斬首刑を回避しようと記憶喪失を理由に婚約破棄に持っていこうとしたけれど、公爵は首を縦に振らなかった。
「それはダメだ。陛下が決めたことだ。こちらから破棄はできない」
「……そうですか」
 落胆しながら小声で返事をした。

 この世界に転生したショックもあって、三日間は一歩も外へ出なかった。だけど、この間にわかったことがある。
 この世界の文字は難なく読めるし、マリアの知識もそのまま。生活習慣も身体が覚えている。
 これなら外へ出ても転生者とはすぐにはバレないだろう。
 なにかおかしなことをしても、記憶喪失と誤魔化せばいい。
「マリア様、気分転換に厩舎に行かれては? ずっと部屋にいては身体にもよくありません」
 グレースに勧められ、乗馬服に着替えて彼女と厩舎へ向かう。
 グレースはずっとついてくれていて、今の私にとってはお守りのような存在だ。
 マリアが自由奔放で我儘な性格だったから、アニメの世界では使用人に嫌われていたけれど、ここでは違う。マリア……いや、私に割と好意的。
「みんな私に優しいですね」
「記憶喪失というのもありますが、マリア様付きの使用人はマリア様が本当はお優しい方なのを知っています。旦那様が今の奥さまを迎えられたから我儘になったのです」
 ああ。最初に会った時も思ったけど、継母との関係はうまくいっていないよね。
 公爵もマリアの私よりも義妹のシャーロットの方をかわいがる。
 マリアはきっと寂しかったんだろうな。
 これで、義妹と仲良しならまだ救いはあったのかもしれないけど、ふたりの関係は良好ではないというのを肌で感じる。
< 3 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop