私、修道女になりたいのですが。。。 ー 悪役令嬢のささやかな野望?
 心配なのか再度確認してくる彼女の目を見て頷いた。
「ああ。大事なものだからマリアに預ける。おやすみ」
 彼女の額にそっと口づけると、マリアの寝室を後にする。
 ドアの外ではマリアの侍女のグレースがいて、俺を見て深々と頭を下げた。
「バラの件はありがとう。今、侍従に調べさせている。他にもなにか気になることがあれば、俺に知らせてくれ」
 実は城に戻った直後、公爵邸からマリア宛にバラの花束が届いた。
 差出人はシャーロットで、今日の階段での事故の見舞いということだったが、グレースが俺に直接そのことを報告してきたのだ。
 グレースはなにか感じているのか、シャーロットを警戒している。
「はい」
 彼女の返事を聞くと、執務室へ向う。
 もう深夜だが、日中できなかった仕事がたまっている。
 執務室に入ると、机の上に書類が山積みになっていて、それを見てハーッと溜め息をついた。
 書類に目を通してサインをしていくと、コンコンと部屋をノックする音がした。
 恐らくルーカスだろう。
「入れ」
 返事をすると、ルーカスが入ってきた。
「アリスちゃんの様子はどう?」
 ルーカスに聞かれ、手に持っていたペンを机に置き、彼に目を向けた。
「今日はいろいろあってかなり動揺していたが、もう大丈夫だ。少し前に寝た」
 俺の話を聞いて、彼はホッとした顔をする。
「そう。それにしても、マリアちゃんが異世界から来たなんてね。お前となにかと縁があるんだろうね。お前のばあさまがそうだったし」
 マリアに異世界から来たと打ち明けられた時、あまり驚かなかった。
 それはやはり身内に異世界人がいたからだろう。
「そうだな。それで、報告を聞こうか」
 マリアを階段から突き落とした男子学生の処遇は、ルーカスに任せていた。
「あの男子学生は、マリアちゃんの義妹のシャーロット嬢に頼まれてやったそうだ。『義姉はふしだらな女だから、皇太子殿下と結婚できないようにしてほしいの』って言われたらしいぞ。お前、今朝公務でいなかったから、絶好の機会だと思ったんだろうな」
 もし、あの場に俺がいなかったら、マリアは大怪我をしていただろう。いや、打ちどころが悪ければ、死んでいたかもしれない。
 そう思うと、マリアの義妹が憎かった。
 この事件がなくても、義妹のことはよく思っていなかった。なぜなら、マリアがいない時に、何度も俺を誘ってきたからだ。
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