私、修道女になりたいのですが。。。 ー 悪役令嬢のささやかな野望?
『記憶喪失になったお義姉様のことが心配で……。相談に乗ってくれませんか?』
 先日もしおらしい態度で俺に近づいてきた。俺とふたりきりになろうという魂胆は見え見え。そんな誘いに乗るほど俺は愚かではない。
『マリアは城の医師に診せるから心配はいらない』
 冷たく返して強引に話を終わらせた。
 シャーロットがマリアに危害を加えたのは、これが初めてではない。ルーカスの報告によると、マリアの落馬事故の件もシャーロットが絡んでいるとか。
 馬場の近くで狼を見たと彼女が言って、庭師に駆除するよう命じたそうだ。それで、庭師は爆竹を使って追い払おうとしたらしい。その時マリアが乗馬していて、馬が爆竹の音に驚いて暴れた……というのがことの真相だ。
「なるほどね」
「シャーロット嬢は本当に怖い女だよ。基本的に女の子はみんな好きだけど、あの女は御免だね。男子学生は学長に言って、停学処分にした。停学でも甘いくらいだけどね。シャーロット嬢はどうする?」
 落馬事故の件も今回の件も、彼女は直接手を下していない。
「今、彼女を捕まえても、しらを切られるのが落ちだ」
 相手は市井の生まれとはいえ、公爵令嬢。安易に手を出せない。
 本当、見た目はかわいいのに、面の皮はとんでもなく厚いな。
 あれは強欲な女だ――。
 マリアを排除して、自分が皇太子妃になろうと企んでいる。
「今朝、マリアちゃんの机に【死ね】って落書きがしてあった件も、それに他の嫌がらせも十中八九彼女だろうな。現場を見た生徒はいないが、近くでシャーロット嬢を見たという目撃談はある」
 そう。マリアは俺に隠しているが、彼女は日常的に誰かから嫌がらせを受けている。マリアは平気な振りをしているが、内心では不安を感じているはず。
 ルーカスと犯人を探っているが、相手はなかなか尻尾を掴ませない。
 もうこれ以上マリアに苦しい思いをさせたくない。
 手をギュッと組んでなにかいい策がないかと思案していたら、また部屋をノックする音が聞こえた。
 ルーカスがドアを開けると、侍従が慌てた様子で現れる。
「殿下から調査を依頼されたバラですが、棘の部分に毒が塗ってありました。大きな熊でも一瞬で死ぬような猛毒です」
 猛毒……。つくづく恐ろしい女。
 だが、これでシャーロットを捕まえられる。
絶対に許さない。
「マリアちゃんがそのバラを手にしなくてよかったよ。恐らく、マリアちゃんが今日無事だったから、別の手段で彼女の命を奪おうとしたんだろう。終わったな、彼女」
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