元伯爵令嬢は乙女ゲームに参戦しました
皆さんと一緒になってお弁当を頂きました。蝶湖様のお弁当のおかずはとても良く出来ていて、ヘタをすると私の作ったものよりも美味しいくらいです。やっぱりなんでも完璧に出来る方なのだと、つくづく実感いたしました。
有朋さんのお弁当のパニーノも、とても美味しくて感動したのですが、これ、下弦さんはよくも中身を買ってきたものだとわかりましたね?そう疑問を投げかけてみれば、皆さんあっさりと言い当てます。
「これ、イル・オーリエの海老アボカドとローストビーフだろ」
「僕は、ラ・フローシュの方が好きですが、これはこれで合っていますよ」
セレブ御用達のお店のものなのですね。私の知らない世界でした。
そんな私に蝶湖様が慰めるように教えてくれます。
「そうでなくても朧は結構食道楽なのよ。味にはうるさいから、まさか勝てるとは思わなかったわ」
なんだかとても重要なことをさらっとおっしゃりましたね、蝶湖様。
まさか、ご自分で料理対決を選んでいてそれでしょうか……ああ、そういえばもう一つ疑問に思っていたことがありました。
「蝶湖様は、下弦さんが実は甘党だって知っていらしたのですか?」
もしも知っていらっしゃったのなら、随分と有利な立場だったと思うのですが。
「え? 知らなかったわ。てっきり甘いものは嫌いなものだとばかり思っていました」
ええと、それは。ということは、つまり……
「おい、お前最初から勝つつもりなかっただろう」
望月さんが私の疑念をずばり言い切ります。やっぱりそう思いますよね。もし知らなかったのなら、わざわざ私の家の甘い卵焼きを入れたりなんかしないはずです。
「そんなつもりはなくてよ。勝負には手を抜いたことは一度もないもの」
ふん。勝とうって気持ちが見えないんだよ。そう付け足して、望月さんは横を向いてしまいました。
確かに蝶湖様が手を抜いているとは思っていませんし、そんなふうには見えません。料理にしても、一生懸命練習していたのを私自身が身をもって知っています。
けれどもこう、全てがその手のひらの上で踊らせられているような気がして、なんとなくもやもやともするのです。
こっそりと蝶湖様を覗き見れば、いつものように涼しい態度を崩しません。けれども先ほどの答えを聞いてしまうと、やはり微妙なしこりが残ってしまいます。
そんなはっきりとしない気持ちを抱えたままテーブルに着いていると、下弦さんに手を引かれた有朋さんが帰ってきました。
「お待たせ」
下弦さんが、トントンと肩を叩いて促すと、有朋さんはおずおずと皆さんの前に出て、勢いよく頭を下げて、ごめんなさい!と、とても彼女らしく元気な声で謝ります。
「素直に負けを認めます。迷惑かけて、ごめんなさい。……でも次は絶対に勝つから!」
最後は蝶湖様に向かって、宣戦布告です。まさに、有朋さんらしい謝罪でした。
「楽しみにしています」
ニッコリと笑って、悠然と返す蝶湖様。そこに、有朋さんが再度追撃します。
「じゃ、次はうららを返してね。もう料理は教え終わったんだから、用はないものねー」
「え?」
え? じゃありませんよ、蝶湖様。吃驚された方が驚きです。
「そりゃそうだろ。元々彼女側なんだから」
「お前のもんじゃねえぞ、蝶湖」
「今回だけっていう話でしたよね」
「……蝶湖、君ねえ」
皆さんが口々におっしゃる通りです。今回の対決で、蝶湖様と一緒に行動する時間が長かったせいか、つい自分でも忘れがちでしたが、本来私は有朋さんの相棒扱いなのでした。
「ええと、ねえ……うらら?」
先ほどまでの余裕ある蝶湖様はどこへ行ってしまったのでしょうか? 妙に慌てたような態度で私に話しかけます。
「はい、蝶湖さん」
「あのね、その……」
言い淀む気持ちも分かります。私も正直にいえば、蝶湖様と一緒にいられないのは寂しいと思っています。でも、ルールは守っていきたいと思いますし、何よりもこの胸のもやもやも、ちゃんと消化したいと思います。だから――
「お疲れさまでした。次もお互い頑張りましょうね」
そう、蝶湖様に向かい、お辞儀をしました。
蝶湖様は少し肩を落としたように見えましたが、くっと力を入れなおし、そうね、よろしく。
そう言ってとても綺麗なお辞儀を返してくださいました。
有朋さんのお弁当のパニーノも、とても美味しくて感動したのですが、これ、下弦さんはよくも中身を買ってきたものだとわかりましたね?そう疑問を投げかけてみれば、皆さんあっさりと言い当てます。
「これ、イル・オーリエの海老アボカドとローストビーフだろ」
「僕は、ラ・フローシュの方が好きですが、これはこれで合っていますよ」
セレブ御用達のお店のものなのですね。私の知らない世界でした。
そんな私に蝶湖様が慰めるように教えてくれます。
「そうでなくても朧は結構食道楽なのよ。味にはうるさいから、まさか勝てるとは思わなかったわ」
なんだかとても重要なことをさらっとおっしゃりましたね、蝶湖様。
まさか、ご自分で料理対決を選んでいてそれでしょうか……ああ、そういえばもう一つ疑問に思っていたことがありました。
「蝶湖様は、下弦さんが実は甘党だって知っていらしたのですか?」
もしも知っていらっしゃったのなら、随分と有利な立場だったと思うのですが。
「え? 知らなかったわ。てっきり甘いものは嫌いなものだとばかり思っていました」
ええと、それは。ということは、つまり……
「おい、お前最初から勝つつもりなかっただろう」
望月さんが私の疑念をずばり言い切ります。やっぱりそう思いますよね。もし知らなかったのなら、わざわざ私の家の甘い卵焼きを入れたりなんかしないはずです。
「そんなつもりはなくてよ。勝負には手を抜いたことは一度もないもの」
ふん。勝とうって気持ちが見えないんだよ。そう付け足して、望月さんは横を向いてしまいました。
確かに蝶湖様が手を抜いているとは思っていませんし、そんなふうには見えません。料理にしても、一生懸命練習していたのを私自身が身をもって知っています。
けれどもこう、全てがその手のひらの上で踊らせられているような気がして、なんとなくもやもやともするのです。
こっそりと蝶湖様を覗き見れば、いつものように涼しい態度を崩しません。けれども先ほどの答えを聞いてしまうと、やはり微妙なしこりが残ってしまいます。
そんなはっきりとしない気持ちを抱えたままテーブルに着いていると、下弦さんに手を引かれた有朋さんが帰ってきました。
「お待たせ」
下弦さんが、トントンと肩を叩いて促すと、有朋さんはおずおずと皆さんの前に出て、勢いよく頭を下げて、ごめんなさい!と、とても彼女らしく元気な声で謝ります。
「素直に負けを認めます。迷惑かけて、ごめんなさい。……でも次は絶対に勝つから!」
最後は蝶湖様に向かって、宣戦布告です。まさに、有朋さんらしい謝罪でした。
「楽しみにしています」
ニッコリと笑って、悠然と返す蝶湖様。そこに、有朋さんが再度追撃します。
「じゃ、次はうららを返してね。もう料理は教え終わったんだから、用はないものねー」
「え?」
え? じゃありませんよ、蝶湖様。吃驚された方が驚きです。
「そりゃそうだろ。元々彼女側なんだから」
「お前のもんじゃねえぞ、蝶湖」
「今回だけっていう話でしたよね」
「……蝶湖、君ねえ」
皆さんが口々におっしゃる通りです。今回の対決で、蝶湖様と一緒に行動する時間が長かったせいか、つい自分でも忘れがちでしたが、本来私は有朋さんの相棒扱いなのでした。
「ええと、ねえ……うらら?」
先ほどまでの余裕ある蝶湖様はどこへ行ってしまったのでしょうか? 妙に慌てたような態度で私に話しかけます。
「はい、蝶湖さん」
「あのね、その……」
言い淀む気持ちも分かります。私も正直にいえば、蝶湖様と一緒にいられないのは寂しいと思っています。でも、ルールは守っていきたいと思いますし、何よりもこの胸のもやもやも、ちゃんと消化したいと思います。だから――
「お疲れさまでした。次もお互い頑張りましょうね」
そう、蝶湖様に向かい、お辞儀をしました。
蝶湖様は少し肩を落としたように見えましたが、くっと力を入れなおし、そうね、よろしく。
そう言ってとても綺麗なお辞儀を返してくださいました。