元伯爵令嬢は乙女ゲームに参戦しました
……なんなのでしょうか、あれは。
今日から通うことになった聖デリア学園は、良家の子息子女の育成のためという教育理念の元に建てられた、幼稚舎から大学まである学園だそうです。ですから本来ならずいぶんお金のかかる学校なのですが、私は高等部の特待生ということで全てが無料になりました。無料です。ものすごくお得な感じがしていいですね、頑張ったかいがあったというものです。
そうして楽しい高校生活への期待に胸膨らませ、学園の門にたどり着いたのですが……
なんとなく様子がおかしいです。
というか、あきらかに様子のおかしい女の子が一人。正門の陰に隠れているつもりで丸見えの彼女は、ふんわりブラウンの髪をツインテールにし、ブラウンの眼をきょろきょろとさせながら周りを見回しています。多分お母様でしたら『ガンを飛ばしてる』と言いそうな様相ですね。
横を通る方をじろじろと舐めるようにみては、何かを確認したかのようにぷいっとまた次の人に目を移しています。
入学式ですので保護者の方も多く来ていますが、皆さんできるだけ近寄らないようにと遠巻きにしているようです。
私もあまり関わり合いになりたくはないので、そうっと通りましょう。
そうっと……。
「ちょっと、そこのあなた!」
「ひっ⁉」
ガッっと肩を掴まれました。ななな、なんでしょう。
眉間に皺をよせてググっと顔を寄せられます。こうして近くでみればかなり可愛らしい女の子なのですが、いかんせん目つきがとても怖いのです。
放してください。ごめんなさい。何もしていませんがとりあえず謝ります。
「あなた、どちらのお家の方?」
「え?」
「どこの家か聞いてるの!」
「は、はい。えっと、池面町です。ここからバスで30分くらいですが……」
「自宅聞いてんじゃないのよ。家名よ、名前!」
うわああん、やっぱり怖いです……眉間の皺が増えていますよ。
「……天道うららと申します」
「天道? ……知らない名前ね。どこのお家に連なるのかしら……最近じゃ、モブだって油断できないのよ。少しでも疑わしきはけん制しとかなくちゃいけないんだから……」
何やらぶつぶつと言い出し自分の世界に入られたようなので、これ幸いと離れましょう。
「で、あなたどこのお嬢様?」
肩を掴まれたままでした。
「すみません。庶民です。ごめんなさい」
何度でも謝りますので放してください。頭を下げたまま彼女の顔をちらりと見ると、うわー……皺深くなっています。どうしましょう。
「そんなナリして庶民な訳ないでしょ――っ!」
「いえ、でも……本当の本当に庶民なのです」
「っはあー? そんな立ち振る舞いして?」
前世が貴族なので姿勢はいいかもしれませんが、今はあなたに威嚇されて相当挙動不審になっている自信があります。
「髪も目も天然のブラウンだし!」
よくみるとあなた染めていますね。根本が黒いです。あとカラーコンタクトが入っていますか? それは普通に校則違反なのではないでしょうか。
「私とキャラ被ってんじゃん!!」
それはいいがかりです。
なんとか怒りを鎮めてもらうしかないので話しかけてみます。
「と、とりあえず落ち着いてください。本当に私は名もない一庶民ですので、あなたのようなお嬢様とは格が違います。これ以降近づきもしません。誓いますから」
ぐるる。と威嚇するような音が聞こえますが、なんとなく落ち着いてきたような気がします。
「本当に近づかない?」
「近づきません」
こちらこそお近づきになりたくないです。
「私の邪魔しない?」
「絶対にしません」
なんだかわかりませんが関わり合いになりたくないです。
「わかった」
っはー……よかった。ようやく理解していただけたようですね。それでは、今度こそ離れましょうと、足を一歩踏み出したところで追い打ちのように声が掛かりました。
「でもなんで庶民なのにこの学園に入学できたの?」
「あ、特待生なのです」
「勉強できるんじゃーん!!!」
もうどうしろっていうのですか……本当に、なんとも扱いに困るお嬢様に絡まれてしまいました。
今日から通うことになった聖デリア学園は、良家の子息子女の育成のためという教育理念の元に建てられた、幼稚舎から大学まである学園だそうです。ですから本来ならずいぶんお金のかかる学校なのですが、私は高等部の特待生ということで全てが無料になりました。無料です。ものすごくお得な感じがしていいですね、頑張ったかいがあったというものです。
そうして楽しい高校生活への期待に胸膨らませ、学園の門にたどり着いたのですが……
なんとなく様子がおかしいです。
というか、あきらかに様子のおかしい女の子が一人。正門の陰に隠れているつもりで丸見えの彼女は、ふんわりブラウンの髪をツインテールにし、ブラウンの眼をきょろきょろとさせながら周りを見回しています。多分お母様でしたら『ガンを飛ばしてる』と言いそうな様相ですね。
横を通る方をじろじろと舐めるようにみては、何かを確認したかのようにぷいっとまた次の人に目を移しています。
入学式ですので保護者の方も多く来ていますが、皆さんできるだけ近寄らないようにと遠巻きにしているようです。
私もあまり関わり合いになりたくはないので、そうっと通りましょう。
そうっと……。
「ちょっと、そこのあなた!」
「ひっ⁉」
ガッっと肩を掴まれました。ななな、なんでしょう。
眉間に皺をよせてググっと顔を寄せられます。こうして近くでみればかなり可愛らしい女の子なのですが、いかんせん目つきがとても怖いのです。
放してください。ごめんなさい。何もしていませんがとりあえず謝ります。
「あなた、どちらのお家の方?」
「え?」
「どこの家か聞いてるの!」
「は、はい。えっと、池面町です。ここからバスで30分くらいですが……」
「自宅聞いてんじゃないのよ。家名よ、名前!」
うわああん、やっぱり怖いです……眉間の皺が増えていますよ。
「……天道うららと申します」
「天道? ……知らない名前ね。どこのお家に連なるのかしら……最近じゃ、モブだって油断できないのよ。少しでも疑わしきはけん制しとかなくちゃいけないんだから……」
何やらぶつぶつと言い出し自分の世界に入られたようなので、これ幸いと離れましょう。
「で、あなたどこのお嬢様?」
肩を掴まれたままでした。
「すみません。庶民です。ごめんなさい」
何度でも謝りますので放してください。頭を下げたまま彼女の顔をちらりと見ると、うわー……皺深くなっています。どうしましょう。
「そんなナリして庶民な訳ないでしょ――っ!」
「いえ、でも……本当の本当に庶民なのです」
「っはあー? そんな立ち振る舞いして?」
前世が貴族なので姿勢はいいかもしれませんが、今はあなたに威嚇されて相当挙動不審になっている自信があります。
「髪も目も天然のブラウンだし!」
よくみるとあなた染めていますね。根本が黒いです。あとカラーコンタクトが入っていますか? それは普通に校則違反なのではないでしょうか。
「私とキャラ被ってんじゃん!!」
それはいいがかりです。
なんとか怒りを鎮めてもらうしかないので話しかけてみます。
「と、とりあえず落ち着いてください。本当に私は名もない一庶民ですので、あなたのようなお嬢様とは格が違います。これ以降近づきもしません。誓いますから」
ぐるる。と威嚇するような音が聞こえますが、なんとなく落ち着いてきたような気がします。
「本当に近づかない?」
「近づきません」
こちらこそお近づきになりたくないです。
「私の邪魔しない?」
「絶対にしません」
なんだかわかりませんが関わり合いになりたくないです。
「わかった」
っはー……よかった。ようやく理解していただけたようですね。それでは、今度こそ離れましょうと、足を一歩踏み出したところで追い打ちのように声が掛かりました。
「でもなんで庶民なのにこの学園に入学できたの?」
「あ、特待生なのです」
「勉強できるんじゃーん!!!」
もうどうしろっていうのですか……本当に、なんとも扱いに困るお嬢様に絡まれてしまいました。