元伯爵令嬢は乙女ゲームに参戦しました
さあ、いよいよ勝負の時間です。
とは言っても、私と有朋さんは各々蝶湖様との対決種目が違いますけれども。
乗馬経験があるとは言え、ほぼ初心者の有朋さんはジムカーナで、指定経路を走りタイムを競うことになりました。
そして本来は初心者のはずの私は、障害飛越競技で蝶湖様と対決するわけですが、なにぶん二対一の変則的な勝負ですので、そこは採点も変則でなされると、アドバイザーの三日月さんとジャッジの十六夜さんに連絡いただいています。
障害飛越競技の形式は、バーを落としたり不従順だったりで点が引かれる減点方式の標準競技でなく、スピード&ハンディネスという、減点をタイム加算するルールで行うそうです。ちなみにバー落下で4秒加算、不従順はタイム加算なし、けれども二回目で失権となります。
これに、ジムカーナのタイムを足して、早い方が勝利ということになりました。
「これなら分かりやすくていいっしょ?」
「ない頭でよく考えたな、初」
ドヤ顔で自慢する三日月さんへ望月さんの容赦ない言葉が突き刺さります。
「いや、考えたのは僕です」
「不知はジャッジだからって、初に押し付けられたんだよね」
静かに十六夜さんが手を挙げ、呆れ顔の下弦さんは説明に回りました。
「相変わらず君らの話は漫才のようだ。ねえ、蝶湖」
「……そうね」
久しぶりに加わった、謹慎明けの新明さんが毒のありそうな笑顔を貼り付けながら蝶湖様へと話しかけ、それはそれは素っ気なく返される蝶湖様の一言が少し……
「怖っ! あの二人超険悪ーっ」
有朋さん、正直すぎます。
夏休みに入り最初の土曜日、いよいよ乗馬対決の日になり、この約一月の練習成果を見せる時がやって参りました。
この一週間はそれこそ朝から晩まで馬場へ通い、三日月さんの手ほどきを受け、自分でも技術的にはかなり上達したように思います。
スピード&ハンディネスはタイムアタック要素の強い競技ですが、バーを落下させては元も子もありませんので、確実に飛ぶということと、コース取りが大事だと強く教えていただきました。
ガリレオは、頭がいいだけでなく脚力も強くスピードもありますので、あとは私が邪魔をせずに、上手に彼を導くのみです。さあ、一緒に頑張りましょう。
そしてまずは、ジムカーナから始まります。
「頑張って下さいね」
「まあ、楽しんでくるわよ」
ロゼリラに跨がる有朋さんに応援の声をかければ、意外な言葉が返ってきます。驚き、じっと真顔で見つめてしまうと、苦笑いされ、
「この子に全部お任せよ。私は」
そう言って、有朋さんが相棒のロゼリラとスタート位置に進みました。
初めて彼女に乗った時のように腰も引けず、しっかりと背筋を伸ばしていましたので、競技用の乗馬服もとても様になっていました。
言葉通り、有朋さんは力みもせず、ロゼリラと一緒に楽しめたようです。
タイムの方はといえば、今までのベストに近い45.7秒と、まずまずでしたので納得もののはずなのに、なんとなく浮かない顔で戻って来られます。
「なんだか物足りないわー。せっかくロゼリラと仲良くなったのに」
「おっ! じゃあこのまま入部しちゃう?別にいいぜ、俺は」
三日月さんにそう言ってもらえると、んー、と首を傾け本気で悩んでいます。
ほらほら、新しい部室も出来たことだし、障害飛越も練習しようぜー、教えるぞー、と三日月さんがやたら横から口を出されるものですから、下弦さんにとうとう頭を叩かれました。
最近、下弦さんの三日月さんに対する当たりが非常に強いようです。
そうしてああだこうだと言い合っている間に、蝶湖様のスタートとなりました。
随分と仲良くなられたモーンタイザーと共に立つ姿は、美しいというよりもむしろ、凛々しく、格好がいいと見惚れてしまいます。
スタートし始めても、流石と思えるほど落ち着いているようで、全てが流れるような動きでした。
結果、39.8秒と、思ったほどタイムは伸びていませんでしたが、やはり有朋さんとはそれなりに差がついてしまったようです。
「5.9秒差かー、結構ついちゃったわ」
「そうですね。でもまだ逆転の目はありますよ。私も頑張りますね」
私が両手の拳をギュッと握りしめ、力こぶを出すポーズを取ると、ぶはっ、と吹きす音が目の前だけでなく、あちらこちらから聞こえました。
あら? 何かおかしいのでしょうか、この格好。
「うん、頑張ってちょうだい。あんたに任せたわ、うらら!」
「はい!任せられました」
気合いを入れられ、ガリレオへと顔を向けます。
「よろしくお願いします、ガリレオ」
そうお願いすれば、ガリレオも気合いが入ったように、ブルルルと、まるで自分に任せておけとばかりの声を聞かせてくれました。
とは言っても、私と有朋さんは各々蝶湖様との対決種目が違いますけれども。
乗馬経験があるとは言え、ほぼ初心者の有朋さんはジムカーナで、指定経路を走りタイムを競うことになりました。
そして本来は初心者のはずの私は、障害飛越競技で蝶湖様と対決するわけですが、なにぶん二対一の変則的な勝負ですので、そこは採点も変則でなされると、アドバイザーの三日月さんとジャッジの十六夜さんに連絡いただいています。
障害飛越競技の形式は、バーを落としたり不従順だったりで点が引かれる減点方式の標準競技でなく、スピード&ハンディネスという、減点をタイム加算するルールで行うそうです。ちなみにバー落下で4秒加算、不従順はタイム加算なし、けれども二回目で失権となります。
これに、ジムカーナのタイムを足して、早い方が勝利ということになりました。
「これなら分かりやすくていいっしょ?」
「ない頭でよく考えたな、初」
ドヤ顔で自慢する三日月さんへ望月さんの容赦ない言葉が突き刺さります。
「いや、考えたのは僕です」
「不知はジャッジだからって、初に押し付けられたんだよね」
静かに十六夜さんが手を挙げ、呆れ顔の下弦さんは説明に回りました。
「相変わらず君らの話は漫才のようだ。ねえ、蝶湖」
「……そうね」
久しぶりに加わった、謹慎明けの新明さんが毒のありそうな笑顔を貼り付けながら蝶湖様へと話しかけ、それはそれは素っ気なく返される蝶湖様の一言が少し……
「怖っ! あの二人超険悪ーっ」
有朋さん、正直すぎます。
夏休みに入り最初の土曜日、いよいよ乗馬対決の日になり、この約一月の練習成果を見せる時がやって参りました。
この一週間はそれこそ朝から晩まで馬場へ通い、三日月さんの手ほどきを受け、自分でも技術的にはかなり上達したように思います。
スピード&ハンディネスはタイムアタック要素の強い競技ですが、バーを落下させては元も子もありませんので、確実に飛ぶということと、コース取りが大事だと強く教えていただきました。
ガリレオは、頭がいいだけでなく脚力も強くスピードもありますので、あとは私が邪魔をせずに、上手に彼を導くのみです。さあ、一緒に頑張りましょう。
そしてまずは、ジムカーナから始まります。
「頑張って下さいね」
「まあ、楽しんでくるわよ」
ロゼリラに跨がる有朋さんに応援の声をかければ、意外な言葉が返ってきます。驚き、じっと真顔で見つめてしまうと、苦笑いされ、
「この子に全部お任せよ。私は」
そう言って、有朋さんが相棒のロゼリラとスタート位置に進みました。
初めて彼女に乗った時のように腰も引けず、しっかりと背筋を伸ばしていましたので、競技用の乗馬服もとても様になっていました。
言葉通り、有朋さんは力みもせず、ロゼリラと一緒に楽しめたようです。
タイムの方はといえば、今までのベストに近い45.7秒と、まずまずでしたので納得もののはずなのに、なんとなく浮かない顔で戻って来られます。
「なんだか物足りないわー。せっかくロゼリラと仲良くなったのに」
「おっ! じゃあこのまま入部しちゃう?別にいいぜ、俺は」
三日月さんにそう言ってもらえると、んー、と首を傾け本気で悩んでいます。
ほらほら、新しい部室も出来たことだし、障害飛越も練習しようぜー、教えるぞー、と三日月さんがやたら横から口を出されるものですから、下弦さんにとうとう頭を叩かれました。
最近、下弦さんの三日月さんに対する当たりが非常に強いようです。
そうしてああだこうだと言い合っている間に、蝶湖様のスタートとなりました。
随分と仲良くなられたモーンタイザーと共に立つ姿は、美しいというよりもむしろ、凛々しく、格好がいいと見惚れてしまいます。
スタートし始めても、流石と思えるほど落ち着いているようで、全てが流れるような動きでした。
結果、39.8秒と、思ったほどタイムは伸びていませんでしたが、やはり有朋さんとはそれなりに差がついてしまったようです。
「5.9秒差かー、結構ついちゃったわ」
「そうですね。でもまだ逆転の目はありますよ。私も頑張りますね」
私が両手の拳をギュッと握りしめ、力こぶを出すポーズを取ると、ぶはっ、と吹きす音が目の前だけでなく、あちらこちらから聞こえました。
あら? 何かおかしいのでしょうか、この格好。
「うん、頑張ってちょうだい。あんたに任せたわ、うらら!」
「はい!任せられました」
気合いを入れられ、ガリレオへと顔を向けます。
「よろしくお願いします、ガリレオ」
そうお願いすれば、ガリレオも気合いが入ったように、ブルルルと、まるで自分に任せておけとばかりの声を聞かせてくれました。