元伯爵令嬢は乙女ゲームに参戦しました
 地下室へ続く石段を下りていると、窓一つ、灯り取り一つもないこの空間は、外の世界とは全く隔離された場所だとつくづく感じさせられます。遠い間隔で置かれた蝋燭だけが、足元を朧気に映し出すのに、もう慣れたものだと気持ちに喝を入れ、私は目的の部屋へと重い足を運んでいきました。
 そうして地下の一番奥、目当ての部屋にたどり着くと、重厚な扉の前に立つ二人の見張りにいつもの印章紋を確認させます。一々面倒な事なのですが、この部屋に入れることの出来る人間は限られているので仕方がありません。
 御一人は部屋の主の御兄上であらせられる、ラクロフィーネ王国王太子殿下。それから私こと、ラクロフィーネ王国宮廷第十二席書記官、ラウター・エスドラルのたった二人だけが入室することを許されているのです。

「失礼いたします」

 深く礼をした後、いつも通り物書きテーブルへと足を進めました。持参してきた筆記用具を準備し、記録書を開いた所で日課の質問を始めます。

「お変わりはありませんでしょうか?」
「んー」
「必要なものはございますか?」
「んーんー」

 相変わらず会話にならない答えが返ってきますが、私はその御言葉をそのまま忠実に記録します。それが三年半前、王太子殿下より命じられた私の仕事でありました。

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