来世なんていらない
遠足騒動の話が終わる頃には、もう半分くらいの生徒が教室から居なくなっていた。

この輪の中の人達も、帰ろっかって言い始めてバラバラに輪から抜けていった。

「わっ…私も帰るね」

机の横に掛けていた鞄を掴んで、逃げるように教室から飛び出した。
早歩きで廊下を突き進んでいたら「九条!」って呼ばれて振り向いた。

武田さんがズンズンと近付いてくる。
私は体が固まって動けなかった。
ホラー映画でナニかを見てしまったみたいに。

目の前まで来た武田さんは、私への嫌悪感を隠さなかった。

「あんなのよくあることだから」

「は…い…?」

「漫画でもよくあるでしょ?陽キャの男子が地味女をほっとけなくて優しくするってやつ。でも現実は少女漫画とは違う。そんなに都合よくキラキラした世界なんてやってこない。だからくだらない夢みるのはやめてね。真翔は私のだから」

「小高くんは武田さんの…」

「そ。あんたなんかとは生きてる世界が違うの。今回は大目に見るけど調子乗ってたら知らないから」

言いたいことを言って、武田さんはクルッて振り返ってまた廊下を戻っていった。

憂鬱だった。
最悪だった。

やっぱり休んでしまおうか。
行く場所なら真剣に考えれば何処かにあるかもしれない。

遠足よりはきっとマシなはず。

ううん。

武田さんは現実は少女漫画とは違うって言った。
キラキラした世界なんて都合よくやってこないって。

そんなことはとっくに知ってる。
地獄の住人は簡単に天国には行けない。

「現実」に居るくらいなら遠足に行ったほうがマシだ。

絶対に。
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