来世なんていらない
二十一時。

今日は十五人くらいが集まっていたけれど、何人かはさすがに疲れが溜まっていたみたいで、雑魚寝を初めている。
担任が買ってきてくれたジュースを配ってくれている。

「まつり、ちょっといい?」

「真翔。うん、だいじょうぶ」

真翔が外のほうを手で示したから、頷いてついていった。

体育館から校舎に繋がる渡り廊下の石段に二人で並んで座った。

「見て」

真翔が伸ばした腕を辿って空を見上げた。

満天の星空。
その言葉が相応しい空だった。

小さく小さく映る星がキラキラしている。
視界に収まりきれないくらいの星。

こうやって夜空を見上げたのはいつぶりだろう。
誰かと空を見上げたのも初めてかもしれない。

「見せたかった物ってこれ?」

「ううん。これはさっき気付いただけ」

もう一回、空を見上げた。
言葉にならないくらい綺麗。

「まつり」

「んー?」

「これ」

真翔のほうに向き直ったら、どこにしまっていたのか、真翔の手の平には小さい箱が乗っている。

「私に?」

「うん」

「どうして…?」

「どうしてって…まつりガチかー。今日、誕生日でしょ」

「誕生日…あー!私、今日誕生日だ!」

「あはははは!マジで忘れてんだ」

八月三十日。私の十七歳の誕生日。

誕生日を誰かに祝ってもらうなんて無縁だと思っていた。
そんなこと全然頭に無かった。

「なんで知ってるの?」

「アプリに登録してるでしょ」

「あー、そうだった!」

メッセージアプリのプロフィール。
そんなことすら忘れていた。

真翔はずっと気にかけてくれていたんだ。
嬉しい。嬉し過ぎて、なんて言ったらいいのか分からない。

そう言えば、さっきママは私に「十六歳」って言った。
私はもう十七歳になってたんだ。

ママでさえ気にもされてない私の誕生日を、私よりもずっとずっと憶えてくれていたなんて。

この人のことが大好きだって思った。
言葉じゃ足りない。
この気持ちを正しく伝えられる言葉を私は持っていない。

大好き以上の大好きが伝えられる言葉を今すぐ教えて欲しかった。
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