来世なんていらない
「九条さん、この後時間ある?」

終礼が終わって声をかけてくれたのは武田さんだった。
私も武田さんとちゃんと話がしたいって思ってた。

二ヶ月前だったら逃げ出していたと思う。
武田さんの声を聞くだけで、姿を見るだけで怖くてどうしようも無かったから。

今は話がしたいと思える。
確実に私の世界は変わっていっている。

「うん。だいじょうぶだよ」

「カラオケ行かない?」

「カラオケ?」

意外な場所を指定されて、ちょっと戸惑った。
武田さんは歌いたい気分…?ってわけではないよなぁ…?

「私、歌はちょっと…」

「…何言ってんの。ゆっくり話したいから個室がいいだけ。静かじゃないかもだけど」

呆れたように言う喋り方は千葉さんによく似ていた。
ずっと一緒に居ると血の繋がりが無くてもいつか姉妹みたいに口調や仕草が似てくるのかもしれない。

「ごめん、勘違いしちゃった」

「なんで九条さんと歌なんか歌わなきゃいけないのよ」

「そうだよね」

それには同感だ。
歌は苦手だ。あんまり上手じゃない自覚があるから、人前では歌いたくない。
武田さんが歌いたい気分じゃなくてホッとした。

武田さんが教室から出ていく。
私も急いで追いかけた。
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