来世なんていらない
日曜日。

ママは帰って来ない。
というか、もうずっと、あの日から帰ってない。

もしかしたら立ち寄ってはいるかもしれないけど、二学期に入ってからは一回も顔を合わせていない。

九月に入って、体育祭の練習が休みになった日曜日があった。
その日に近所のおばあちゃんが経営している個人商店の手伝いをして、お小遣いを貰った。

それでいつまで持つかは分からない。

日曜は本当にゆっくり眠った。
私の意思とは関係なく、体も頭も眠たい!って訴えてきてるみたいで、怖いくらいに眠れた。
よっぽど疲れていたらしい。

ようやく体を起こした時にはもう夕方の五時前で、
やっぱりママが帰ってきた形跡は無かった。

ママが居ないとこんなにも部屋が乱れないんだって思った。

観たいテレビもあんまり無い。
シーンとしている。

寂しい、って感覚は、この家にはよく分からなかった。

ただ、怖いと思う。
ママが本当に居なくなったら?

それを考えると、あんなに恐怖の対象でしかないはずなのに、存在が無くなってしまうことのほうが怖いと思える。

私の中に棲みついている本当の地獄は、ソレだった。

許されない地獄。
許せない地獄。

武田さんや千葉さん達と和解出来たのも、生きてるからだ。

死んだら終わり。

言ってやりたいことも許されたかったことも、
何も届かない。

そうなってしまうことが一番怖かった。

あぁ、私は何を考えてるんだろう。
どうせまたケロッと帰ってきて部屋を乱して、私を一発殴りでもして出ていく。
その日常はきっと続くのに。

背伸びをして、軽く髪を整えてから、真翔がくれたパーカーを羽織った。

財布の中を見る。

五千円札が一枚。

確かコンビニのレジで声をかければ、お土産に出来そうなクッキー缶が買えたはず。

サンダルを履いて、外に出た。

夕方はちょっと、肌寒くなった。
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