来世なんていらない
それからいっぱい話をした。

真翔の好きなこととか趣味の話。
映画が好きで、確かに真翔の部屋には映画のディスクが沢山あった。

私は料理を覚えたいんだとか、お弁当箱を貰ったし、二学期はお弁当作りを頑張りたいとか。

それからバイトも始めたほうがいいかもしれないって話もした。

おうちのことは祖父母か、担任にだけでも一緒に話しに行こうか?って真翔が言ってくれた。

それもいいかもしれない。
応援合戦の一件でもよく分かった。
私は一人で生きてるわけじゃないってこと。

助けてって声に出すことで世界が変わること。
今日、明日、一日ずつでも生きていくのを繋げていけること。

私に少し勇気があれば、きっとまた変えられる。

「その時は…お願いしようかな」

「うん」

十三時になろうとしていた。
真翔の家に着いたのが十一時前だったから二時間経ったんだ。
あっという間だったな。

外から車のエンジン音が聞こえてきて、近くに止まった。
…というか、この家?

「嘘だろ」

真翔が呟いて、窓のカーテンの隙間から外を覗いた。

「父さん…」

こっちに向き直った真翔が、ソファに戻ってきて、大きな溜息をついた。

顔がすごく険しい。
こんな真翔は初めて見た。

「どうしたの…?」

「父さんが帰ってきた」

「え、そうなの?私が居たらマズイようなら帰るよ!」

「いや、いいんだよ、まつりは…」

言いかけていた真翔が喋るのをやめて、ジッと黙った。

カン、カン、カンって、さっき見た螺旋状の大きな階段を上ってくる音がする。

その足音はだんだん近付いてきて、この部屋の前で止まった。

ノックと一緒に「真翔、居るのか?お客さんか?」って男性の声がした。

「居るよ。お客さんも。入ってこないでいいから」

「そういうわけにいかないだろう。父さんにも挨拶させてくれないか」

「だからいいって!」

大きな声を出した真翔に、私が首を振った。

「真翔、私にもちゃんと挨拶させて」

ニコッて笑って、止めようとする真翔を宥めて、立ち上がってドアを開けた。

すごく身長の高い男性が私を見下ろしている。
百八十センチはありそう。
真翔もけっこう大きいし、遺伝なんだ。

「初めまして。九条まつりです。お父様のお留守の時に勝手にすみません」

「初めまして。真翔の父です。やはり女性でしたか」

真翔のお父さんはニコニコと笑って私に「よく来たね」って言った。
笑った顔はあんまり似てない。
真翔はお母さん似なのかもしれない。

「やっぱりって、どうしてですか?」

「靴が置いてあっただろう。あんなに小さい靴は女性か子どもくらいだ」

「そうですか。足、小さいんです」

「ははは。可愛らしいね」

「父さん!もういいだろ。てか仕事じゃなかったの」

「何言ってるんだ。月曜の診察は午後休診だ」

「あー…あぁ…」

真翔が目に見えて項垂れる。
忘れてたのかな。
しっかりしてる真翔にしては珍しい。
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