来世なんていらない
「俺さ、本当は今の高校は第一希望じゃなくて。市外のS高を受験するつもりだった。今の高校は滑り止めだったんだ」

「武田さんが絶対真翔と同じ高校に行きたかったって…」

「うちが滑り止めだって知って、りいさは奇跡が起きるかもしれないって、うちの高校を選んだんだ。俺が受験に失敗することが奇跡なんて笑うよな」

真翔はその頃を思い出すように、ちょっと笑った。

「うちは医者の家系でさ、父さんも伯父さんも従兄弟達もみんなS高だった。そこに行って、大学は医学部に入って、医者になるのが当たり前だった。俺も当然、まずはS高に入らないと話にならないって、小学生の頃からずっと勉強漬けだった」

「凄いね…」

「凄いのは親戚達な。俺はなんにも凄くない。あの家系で俺は明らかに落ちこぼれでさ。中学受験で失敗するのが怖くて、高校は絶対S高に行くからって頼みこんで市立の中学に通ってたんだ」

「だから中学は武田さんと一緒だったんだね」

「うん。中学でも塾に通ったり家庭教師つけたりして、ずっとS高を受験する為だけに生きてるようなもんだった。気が狂いそうだった。家での会話も勉強のことばっかり」

「お母さんは…真翔の理解者じゃなかったの…」

「母さんは父さんが言うことが絶対の人だった。父さんの言う通りにしてれば人生間違いないんだって。父さんの前ではいつもオドオドしてた。お手伝いさんもさ、今とは違う人で、その人のほうがずっと父さんに対しても考えを言える人だった。もうどっちがお手伝いさんなのか分かんなかったな」

真翔の話のどこにも、家族らしい一面が見えてこない。

家族らしさなんて私だって知らないけど、真翔の思い出の中の家族にも、笑顔を感じなかった。
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