来世なんていらない
「死は救いにならない。私はあのまま死んでたらこんな風に真翔を愛しく思うことも無かったかもしれない。武田さん達のことも許せないままで、生まれてきたことを恨んだままで終わるなんて虚しくて寂しいよ。生きてれば苦しいしやるせないよ。私は今だって家に帰れば地獄は続いてる。それでも生きてなきゃ、私は意地でもしがみついてでも幸せにならなきゃ悔しいじゃん!真翔は確かに間違ったことをしたかもしれない。それでも生きてさえいればその気持ちを償うことなんていくらでも出来るじゃん…」

真翔が、頬に触れる私の手を握って、そっと離した。
振り返って、ゆっくりフェンスに近付く。

「やだよ…ねぇ、真翔!」

「まつり。それならさ、また出会おう」

「またって何!」

「なんにもない、まっさらな人間でまつりに出会いたかった。綺麗な心でまつりを大事にして守りたかった」

「バカじゃないの!まっさらな人間なんて居ない!後悔が無い人間なんて居ると思ってるの!?誰だってやりきれない気持ちを抱えてそれでもどうにか明日に繋げようって生きてるんだよ。その過去があっても私を大切にしてくれた真翔は本物でしょ!?嘘なんか無い!俺を信じてって言ったのは誰よ!!!」

「ごめん。もしもこの世界に来世があるなら俺はもう一度まつりのとこに辿り着いて、今度こそちゃんと…」

こんなはずじゃなかったのに、なんて何度思ったって、
時間は元には戻せない。

当たり前のことだ。
そんなことは全人類が知っている。
誰かにだけ特別に戻りたい「あの頃」に戻れる奇跡なんて、この世には無い。

来世なんて不確かな物を信じられるほど、私は純粋じゃない。
確かなのは今ここに存在する、この命だけだ。
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