来世なんていらない
「真翔が私を人間にしてくれたの」

「人間に?」

「うん。私はただ死ねないから生きてるだけの、意思を持たないガラクタだった」

「そっか…」

「でも真翔が私を見つけてくれて世界が変わった。助けてって声にすることは罪だと思ってた。体の傷ならみんな気付くのに、どうして心の傷は信じて貰えないんだろうって思ってた」

繋いだ手。
いつもちょっと冷たい。

この冷たい手の平にも慣れた。
この温度もだんだんと私になる。
私の中に溶け込んでって、真翔と一緒に生きてるって実感出来る。

「そりゃそうだよね。私だって目に見えるものしか見つけてあげられない。他人を知ることは難しい。それでも真翔が見つけてくれたように、ちょっとずつみんなが信じてくれたように、私も誰かの痛みから逃げたくない。みんながくれた大好きな世界で、大好きな人達と生きていたい。私、もう死にたくなんかないよ。今日まで、生きてて良かった!」

優しい真翔のキス。

風の音と、真翔の息遣いだけ。
世界にはそれしか無いみたいに思えた。

いつかまた傷付いてどうしようもなくて死にたくなった時、何度でも私はこの優しい笑顔に救われるだろう。

私に真翔を守り続ける力があるかは分からない。
だけどずっと傍で一緒に生きていく。
それだけで私達は明日を繋いでいける。

強くなくていい。
弱くて泣き出してしまっても、助けてって言える勇気を、私を待っていてくれる人が居るってことを、私はもう忘れない。

「俺さ、大学は医学部目指すよ」

「だいじょうぶなの?」

「俺も変わらなきゃ。過去に負けたくない。父さんのことも見返したい」

「お父さんにはもう話した?」

「うん。まだ信じては無いみたい。そりゃそうだよな。勝手にしろって言われた。“見ものだな”っておちょくられたよ。絶対に負けない。だからまつりは隣で見守ってて」

「うん」

真翔が私のリスカの痕を一本一本、指でなぞる。

「皮膚移植について学びたいんだ」

「皮膚移植?難しそう」

「いつか約束したろ。まつりがどうしてもこの傷を許せなくて消したくなったら、俺が綺麗にしてあげるって」

「うん。そうだったね」

「約束。憶えててね。きっと叶えるから」

「信じてる」

指切りをした。

幸せな涙がこぼれた。

この人を一生愛してるって思った。
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