来世なんていらない
地獄

願いを込めて

自宅に着いて、古い砂まみれの階段を上る。

市営アパートの壁も階段も築何年なのか煤けていて、各部屋のドアの塗装も所々剥がれてしまっている。

「おねーちゃん!おかえりなさい!」

二階と三階の階段の踊り場で遊んでいた女の子に声をかけられる。

うちのお隣さん、302号室に住んでいる、小学三年生の女の子で、私と同じ一人っ子だから、時々一緒に遊んでる。

女の子の隣の子は見たことが無い子だから、きっとアパートの友達ではないんだろう。

「ただいま。これ、あげるよ」

「えっ!いいのー!?」

「うん。二人で仲良く分けてね」

「おねーちゃん、ありがとー!」

「ありがと、ございます」

遠足で余ったおやつ…って言っても何も食べてないけど、全部女の子達にあげた。

おやつなんて準備する必要も無かったのに、ちょっとはどこかで期待していた自分がバカみたいだ。

バイバイって女の子達に手を振って、階段を駆け上がった。

リュックのサイドポケットから鍵を取り出して、鍵穴に差し込む。

鉄扉に塗装しただけのドアは重たい。
今は全然平気だけど、もっと小さい時はもっとしんどかった気がする。

靴が散らかった玄関。
ほとんどがママの物。

昨日はどれを履いていたのか、明日はどれを履くつもりなのかも分からない。

「ママ?」

玄関で声を出してみたけど、返事は無い。

靴を脱いで、ママの部屋に行ってみた。
さっきまで眠っていたのか、抜け殻みたいにまだちょっと形の残った毛布。

玄関と同じ、洋服があちこちに散乱して、飲みかけのペットボトルとか、要るのか要らないのか分からない書類が散らばっている。

ママの部屋の物には手をつけない。
あとで無くなったって騒がれても困るから。

明らかにゴミだろうって思う物だけを取って、キッチンのゴミ箱に捨てた。

リビング…と呼べるのか分からない、テレビのある部屋は今朝少し片付けてきたばかりなのに、
灰皿の中には吸い殻の山が出来ていて、
メイク用品も何もかもがそのままだった。

これにも手をつけない。
吸い殻だけを綺麗に片付けた。
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