零愛ー俺が必ずこの子を守る​ー
しかし…1分程前にほんの少しだけ
動いてしまい、その振動でか起きてしまったようだ。

「どうした?」

俺に何か言おうとしているようだが
よく聞こえなかった。

芹奈ちゃんの声に耳を傾けると
小さな声が鼓膜に届いた。

「……お兄ちゃん」

真っ直ぐと向けられる
その目は目が離せないものだった。

「……行っちゃやだ」

なんて、儚げに、か弱そうに、
そんな事を言うんだろう。

……………………………俺なんかに。

どこにも行かないで、と言わんばかりに
一晩で弱まった俺を掴む手に
再びギュー……、と力が込められて
腹を圧迫した。

その力はきっと不安の裏返しなのだろう、
と思うと切なさで胸が締め付けられる。

「……ずっといっしょ」

声を縛り出すようにそう言って
俺に擦り寄る芹奈ちゃん。

きっと……寝ぼけているのだろう。

多分俺を海里さんだと思っている。

兄ちゃんだ、って言ってあげたら良かった。

けどそんな事言ってあげられなかった。

「ごめん……俺、兄ちゃんじゃな……」

「知ってるもん……」
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