零愛ー俺が必ずこの子を守る​ー
俯いて必死に込み上げる涙を抑えていると
「芹奈」と私の名前を呼ぶ声が聞こえて顔を上げた。

「…っ」

そこには職員室に用事があるとかでしばらく教室にいなかった桃季が戻ってきていた。

「ももき…」

泣かない、泣かない。

必死に涙を堪えて下唇を噛む。

「あっ、東島くん〜っ」

すぐ横では突然の桃季の登場で野村さんが甘ったるい声を出した。

…狙ってるんだろうな。下心が見え見え…。

しかし桃季は自らに好意が向けられている事など知ってか知らずか私の手を引っ張った。

「芹奈行くぞ。
17時からひき肉のセール始まる。急がないと」

今日は始業式だけだから、
只今の時刻は11時30分だった。

きっと適当言って助けてくれたんだ。

「……っ、ぐすんっ…」

廊下に連れ出され、
人気のない渡り廊下。
鼻を啜る私を見て桃季が足を止めた。

私も釣られるように立ち止まると、ツン、としていた桃季の表情がふわっと崩れた。

「大丈夫だって。よく頑張ったな」

薄く笑みを浮かべながら私の涙を手の甲で拭った。

優しく低いトーンで放たれたその言葉を聞いた瞬間。肩の力が抜けた気がした。

「…別に泣いてないもん」

「そうだな、えらいな。芹奈は」
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