別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~
 未来が玄関に行くと、ピカピカに磨き上げられたたたきの上で和輝が靴を脱いでいるところだった。

「和くん、お帰りなさい。お疲れ様」

「ただいま。未来」
 
 表情を柔らかくし、手を伸ばしてきた和輝に正面からギュッと抱きしめられる。
 厚い胸板を頬で感じビュンと心拍数が上がる。

(へ、平常心……っ!)

 未来は自分を叱咤し何とか声を出す。

「大阪日帰りなんて大変だったね。泊まってくればよかったのに」
 
 和輝は今日大阪への出張で早朝家を出た。きっと移動で疲れているはずだ。

「ここで未来が待っているのに、違う場所で泊るなんて出来るわけないだろう」
 
 頭の上から甘さを含む声が振ってくる。

「……ごはん、作っておいたよ。すぐに食べる? 私は先に食べちゃったけど」

「ありがとう。もらうよ。最近は未来が作ってくれる夕食が楽しみで仕事も捗ってる。ああこれ、向こうのスタッフがおいしいと言っていたバターサンドも入ってる。君、好きだろう?」

 未来から体を離した和輝は、大阪土産と思われる焼き菓子や和菓子などが入った大きな紙袋を手渡す。

「わ、ありがとう!」

「ん」

 和輝は上半身をかがめ、未来の頬に軽いキスをしてからパウダールームに向かっていった。
< 103 / 230 >

この作品をシェア

pagetop